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2005.09.17

TTR能「船弁慶」

九月九日の重陽の節句に「能」
大阪能楽会館まで、出かける(腰痛だけど、そんなことを言っては
いられない)

解説の高桑いづみさんが、
「お能は動く彫刻と言われます…」とおっしゃったのが
印象的だった。

美しい彫刻なら、清司さんにぴったりではないか。

ところが今日の清司さんの「静」は
ただ美しいのではなく、
置き捨ててしまわれるのか、という疑いに
面を暗くし、ついには
自ら確かめようと、義経に会いに行く。
その意志的な姿が美しい。

どうしても一緒に行けないのなら…と
門出の舞を舞う姿が、
「大人」だった。
哀しいのだがそれを見せまいとして、
きりりと謡いかつ舞う。

ホールで見たときは、席が遠すぎて、
静の表情が分からなかったので、
ただ装束の華やかさと、白拍子の舞の切れに
目をみはったものだったが、

最前列だと、古風な面の細かな動きもよく分かる。
装束の質感も感じられる。
視力のよい人を羨ましく思うのはこういう時だが、

ぼんやりとした像で記憶しているので
鮮やかだとついシテばかり観てしまった。

前回と大きく違ったのは後場。
知盛の霊が登場するところを、
綺麗だけれど、武者らしさが少ないか、と思ったのだが。

「飛出」という名ある面だったそうで、
まるで、波の中から姿を現したかのように
しんしんと薄闇が知盛の周りに降りた。

呪いの声もおどろおどろしく、義経に斬ってかかる姿は、
生前よりももの凄まじかろうと思えた。
(義経は“少しも騒がず”スラリと刀を抜き…赤松裕一くんが
すばらしい落ち着きとタイミング)

弁慶に祈り伏せられるまでの知盛の舞、
大波の揺れに合わせて、寄せて返す激しさがあった。

終わったときはほっと息をついてしまった。
あまりに力のこもったお能だったから。
「すごかったね」「よかったね」と口々に皆言い合っていて、
他に言葉が出ないのだ。

TTRのお囃子は、いつも以上によく、(小鼓 成田達志
大鼓 山本哲也)
(笛は藤田六郎兵衛、太皷 前川光長)
時には地謡を圧倒する勢いだった。
すっかりお囃子の音に慣れて、体がうきうきする。

よいお囃子、地謡、演者で「船弁慶」というドラマを
しっかり見ることができ、
充実した時間だった。

来年までTTRの能公演はないが、お囃子ライブはある。
時間が許せばまた飛んで来よう。

今までのアイは茂山家のメンバーだったので、
和泉流の船頭で観るのは初めてだったが、
小笠原さんの、抑え目の所作と、しずかだが良く透る声、
宿の亭主から船頭に早変わりするときの素早さ、など
すっかり感心してしまった。

※ 弁慶 福王茂十郎  地頭 大槻文藏 アイ 小笠原匡

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» 『船弁慶』最高! [「能楽の淵」管理人日記]
 TTR能プロジェクト2005公演『船弁慶』を見て来ました。TTR能プロジェクト2005公演 ◆9月9日(金)19時半〜 於・大阪能楽会館★一管『鈴之段』藤田六郎兵衛★観世流能『船弁慶-重キ前後之替・早装束』  前シテ(静御前)/後シテ(平知盛の怨霊)=片山清司  子方(源義経)=赤松裕一  ワキ(武蔵坊弁慶)=福王茂十郎  ワキツレ(義経の従者)=福王和幸・福王知登  アイ(船宿の主/船頭)=小笠原匡  地頭=大槻文蔵  笛=藤田六郎兵衛 小鼓=成田達志 大鼓=山本哲也 太鼓=... [続きを読む]

受信: 2005.09.24 13:22

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