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2005.10.10

水鏡~「井筒」

毎回通っている大槻能楽堂の自主公演。
今夜は「井筒」

揚げ幕から登場するシテを見た瞬間が、
わたしの、その日のお能の期待度の指針になる。

この日のシテの横顔は
はりつめて美しかった。

以前に別の方で見たときよりも、若く
可憐な雰囲気だった。

紅い紅い小袖が若さをあらわし、
まるで
振り分け髪を上げたばかりの少女に見える。

この寺にふと立ち寄った旅の僧の、
やわらかな嗄れ声、落ち着いたその声が、
閼伽桶を持つ女を誘うように響く。

※シテは上田拓司さん、ワキは宝生欣哉さん

数本の薄が植わった作り物の井戸が正面に出ている。
空調の風でひらひらと揺れるのが秋の寺の感じが
出ている…などと思っていたが
すっかり、
ふたりの問答の虜になって舞台をみつめる。

業平とのかかわりを聞かれ
はじめは「ゆえもゆかりも」ないと否定していた女は
彼の恋物語の数々を、歌をまじえて語るうちに

「紀有常の女とも…恥ずかしながら我なり」と言い
井筒の陰に隠れる。
謡はそうだが、女は橋掛りを渡って中入する。
夜はまだ半ば、息の続く限り長く漂う笛の音に
送られて歩む女の後姿が灯りに映える。

アイ狂言は善竹隆司さん、
ゆっくりしっかりした、やや高めの声で、
もう一度、業平と井筒の女の物語を語られる。


狂言方の語り以前に、地謡がよくわかる、と不思議だった。
以前、ラジオの素謡(井筒)を録音したことがあり、
何度か聞いているうちに、
調子を耳が覚えたらしい。
これがなじむという感覚だろうか。


後場は謡と舞。

「業平の形見の装束」(初冠に長絹、太刀)を
身に付けて現われた女は、
太刀を佩いた男姿であっても
やさしい面だちがやっぱり娘である。
二藍の長絹の下から、
前場で着けていた紅い小袖がのぞく。
対比で更に上の衣が映える。

「移り舞い」と
序の舞にはいると、粛々とした運びが
精確であればあるだけ
娘の思いの強さがこちらに伝わってくる。
楽の音のみの舞、少しも長く感じなかった。

ふくふくとした頬の柔らかさ、
舞い終えて、井戸に姿を映し見たときの
うつむいた顔が、やや翳って
昔男の面影にもみえる。
そっとすすきをかきわけた袖の優しさ。

夜のほの明けに消えてゆく娘を、
送りかねて笛がふいっと消える。
きょうの「井筒」は、
笛にはじまり笛に終わったようだった。

続いて進む旅の僧が、夢の幕を引くように歩み去って、
舞台に空がもどった。

※笛 竹市 学  小鼓 飯田 清一
大鼓 石井 喜彦 地頭 大槻 文藏

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