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2005.11.29

「船弁慶」…照の会

尼崎の大物浦。
頼朝と不和になった義経主従は、西国に落ち延びようと
していた。
ここまで一緒に来た静御前を都に返すことになり
弁慶が宿に行きそれを伝える。
納得しかねる静だったが義経に説得され、
旅立ちを寿ぐ舞を舞って一人淋しく別れてゆく。

船を出した義経たちはほどなく嵐に巻き込まれる。
船頭は必死になって船を操るが、波はますます高く、
風雨の中に、壇ノ浦で滅亡した平家の人々が
怨霊となってあらわれる。
そのなかで知盛は、薙刀をひっさげて、義経を討とうと
襲いかかるが、弁慶の法力に妨げられ、
「あと白波と」消えうせていく。


この後の義経の運命は…お能では「安宅」ということになる。

今年は大河ドラマ「義経」があったため
「船弁慶」を何度も観る機会があった。
お能だけでなく素謡も舞囃子も、観た。
回数を重ねると、謡や舞の順序もわかって、
より楽しく観られるようになった。

「照の会」はお能を知ったはじめのころに
「道成寺」を観たという縁がある。
上田拓司さんの主催する会で毎年一回行われ、
今年十一回目を迎える。

十月に拓司さんの「井筒」をみた。
同じころに、「望月」で三男の顕崇くんを観た。
以前には、仕舞も舞囃子もただなんとなく
みていただけだったが、
少し仕舞をかじってから観るととても面白い。

この日は舞囃子は二番。
「菊慈童」と「田村」
静と動

「菊慈童」は次男の彰敏くん。
曲は菊の枕のおかげで不老長寿を得た、
「慈童」(少年)の話である。

優しく縹渺とした中に寂しさを含んだお能。
彼の若く、清々しい舞がよく似合っている。
ひとつひとつの型がきっちり決まっているのが
わかりやすくて嬉しかった。

長兄宜照くんの「田村」
こちらはもう、生き生きとした激しさだ。
飛びかえり、というのだったか、
飛び上がって一回転して着座、の型など
目を見張るものがあった。

爽やかな気分になったところで
狂言は「千鳥」
千五郎、七五三兄弟の
かけあいの「間」が絶妙だった。
しばらく狂言から遠ざかっていたので、
とても新鮮に感じた。
「千鳥」は謡も舞もあって良く出来た曲だ、とわかる。
主人役の正邦さん、美声が、この日はコントロールされていて、
柔らかく聞こえた。

いよいよの「船弁慶」
小書が「重キ前後之替」
「語入名所教」と二つも。

実は、小書のことはあまりよく知らない。
弁慶の語りや船頭の名所教えがあって
時間も一時間四十分かかった。
これまでに見た中で一番長い。

静御前はこれまでに、情熱的な静、や
耐える静、やひたむきな静、などを見た。

上田さんの静はまたすこし違っていた。
穏やかななかにも芯がある。
面は地味なのに、輝くようなものが内からにじみ出ていて、
彼女が秘めているおもいのつよさを感じた。
立てた襟の内側が抑えた緋色なのが目に鮮やかだ。

別れの哀しみをおしかくして舞うとき、
面は一瞬に誇りたかい白拍子の顔に変わった。
こういうとき、すうっと気持が舞台に
吸い込まれていくような気がする。

舞うときの静は、ハレの姿なのだ。
すると舞台の中の舞台でシテは舞っていることになる。
この入れ子細工の仕上げを手伝うのが後見のお二人。

大槻文藏さんと赤松禎英さん。
文藏さんは、すっと静の後に座って、
烏帽子を支えたりしておられたのだが、
赤松さんが、襟を折り返して、浅緋の部分を隠し、
長絹を着せたとたんに、シテの雰囲気が変わるのだ。
その赤松さんの針を持つ姿の美しさ、糸を切る音が
しんとした場内に響く。

「物着」もまた曲の一部なのか。
舞台の中央でなされたときは特にそうなのだろう。


静の舞は綺麗だった。
ただの綺麗、ではなくて、そこに居たのは静だった。
丁寧でゆったりしているのに、眠くならないのは、
ひとつづつの型が、しっかりきっちりしているからで、
型に支えられた美とは、こういうものか、と思う。
例えるならば「古代雛」、
格調高い優雅さがある。

後シテの知盛は、
面があまり恐ろしいふうでなかったこともあって、
怨霊の激情より、海に沈んだ公達の無念を思った。
幕の中で名乗りをあげて、橋掛りを歩んでくる姿が
儚かった。

そして、
迎え撃つ義経は、しっかりと幕を観ていた。
脇正面から観ていて、シテの登場がわかったのは
彼の視線によってだった。

顕崇くんはほとんど大人に近い子方だから、
互角に知盛と相対することができる。
太刀を抜く姿勢も、何合かの打ち合いも、
子方の域を越えている。

私個人の好みだが、
これからが楽しみでならない。
声変わりの初期のようで、しばらく舞台は観られないだろうが、
面かけのときはぜひ、観てみたいと思う。

楽しいことは他にもあった。
舞囃子の大鼓が、大倉慶之助さん。
顔は知っていたが、名前は初めて知った。
若いだけに力強い音だ。
また、お能の小鼓が成田さん、底響きのある声は変わらない。
大鼓が山本孝さん、どんどん音が強く、澄んでいく。
枯れ具合がなんともいえず素敵だった。

【船弁慶】シテ 静御前・平知盛の亡霊 上田 拓司
    ワキ 武蔵坊弁慶 福王 茂十郎
    ワキツレ 従者 福王 知登 
            永留 浩史
            喜多 雅人
    アイ 船頭 茂山 千三郎

笛:野口 亮 小鼓: 成田 逹志 大鼓:山本 孝
太皷:三島 元太郎

【舞囃子】笛:野口亮 小鼓:古田 知英 
大鼓:大倉 慶之助 太皷:三島 元太郎
 平成十七年 十一月 十八日(金)於 大槻能楽堂

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