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2005.12.08

「第200回市民狂言会」(京都観世会館)

自治体がこのように長い間、伝統芸能の催しをし続けるのは
珍しいこと、らしい。
京都「市民狂言会」は、昭和三十二年から始まり、
ついに二百回を迎えた。

記念してのプログラムは、紺地に金色の渋い色合いである。
いつも、色の組み合わせが粋なので
それ(チケットの色目)をみるのも楽しみだ。

昔の演目や演者が四頁にわたって紹介されている。
1981年当時は、いまの千作さんは
まだ千五郎だったのだし、千五郎、七五三のご兄弟は
本名での出演だった。
歴史とは地味な毎回の積み重ねなのだな。

今夜の演目は三つ。
まず、千作さんが奏者で登場の「筑紫の奥」
「佐渡狐」と同様の百姓もので、
千五郎さん、七五三さんの兄弟の呼吸がよく合っている。
おめでたい狂言なので選ばれたようで、
最後の「笑い止め」で、会場中に三人の大笑いが響く。

千作さんの立ち居が、少しぎごちないのが心配だったが、
途中から声も良く出てきて、
台詞の内容より、ちょっとした間の取り方で笑わせる
じいちゃんの芸は健在である。
「ほんまに、千作さんは国の宝や」と友達は言う。

次の「蝸牛」では弟の千之丞さんが太郎冠者だ。
三つか四つ違いの兄弟のはずだが、
千之丞さんの、すらすらとした歩みには驚く。
声もよくテンポも速い。
狂言のまったりした“間”をとらず、普通の演劇のように
さらさらと台詞がすすむ。
誰とも違うその速さが“間”のようだ。
普通の声のようでいて、最後列までしっかり透る声は
「ただものではない、って感じ」とこれまた感心する。

「蝸牛」はいろんな組み合わせで見ている。
誰のときでも、輪になって踊りだすところはいつも面白い。
忠三郎さんの山伏ははじめてで、
千五郎家の誰よりも、ゆるゆるゆるとした口跡だ。
対する千之丞さんが速いものだから、そのかみ合わなさが
さらに笑いを誘う。
あきらさんとの親子共演で
声の質が似ている。特に高く裏返るところなんぞ。

このごろは狂言の中の、謡や舞に興味が出てきている。
お百姓たちが、「御年貢」の内訳を朗々とふし付けする場面や、
太郎冠者が山伏に騙されて踊りだし、止めようとした主人も
同様になるときの三人の舞の合いかたなど、
見どころが増えた。

その舞と言えば、
記念公演に東京から野村家の三人がお見えだった。
(万作さん、萬斎さん、石田さん)
演目は「小傘」(こがらかさ)で、
これは和泉流にしかないそうだ。

三人の背中の線が、まことにうつくしい。
美しい狂言をめざしている万作さんらしく、
博打打あがりのにわか僧にしては、
品が良すぎる姿のよさである。
このいかさま坊主の役は以前に萬斎さんで見たが、
彼のほうが無頼な感じが役に似合ってたいた。

村のものは茂山両家の総出演である。
最初から目立つのが、尼役の千三郎さんで、思い切り足を
引きずって、二つ折れになった体でひょこひょこと
最後に登場されると、どっと大笑いが起こる。

にわか住持に供物をささげて願い事をする場面は、
ファンサービスの茂山家らしく、
くすぐりやニュースを取り入れて、客はみんな大笑いで
ぴしっとしていた雰囲気がやや柔らかくなり、
一挙に最後の総踊りに入る。

読経もできないいかさま師が、お経に聞こえるように
小謡をうたう。何度も何度も繰り返す。
隙をみて逃げ出すが
輪になって踊っているものたちははじめは気づかない。

みんなが二人を追いかけて行ってしまい、舞台に残ったのは
尼がただひとりである。
「大切な小袖をささげてしまった」とぼやいて、
足を引きずりながら退場していく。
千三郎さん得意の「お婆さん」で、
格好も無類におかしくて大笑いしてしまう。

石田さんが尼役のときは、というか
野村家が演じるときは、尼の台詞がもう少し苦く、
ビターチョコの味わいになる。
それはそれで、しみじみとおかしいのだ。

チケット代も手ごろで、時間もほどほど。
「これからも長く続けたい。」と千之丞さんは力をこめて語られる。
年を取れば取るほど滋味が滲むのが
狂言を含めた伝統芸能の不思議さだ。
その魅力に惹かれているから、
また心もち新たに、せっせと通うことにしよう。

「筑紫の奥」
筑紫のお百姓:茂山 七五三 丹波のお百姓:茂山千五郎
奏者:茂山 千作
「蝸牛」
太郎冠者:茂山 千之丞 山伏:茂山 忠三郎
主人:茂山 あきら
「小傘」
住持:野村 万作 新発意:野村 萬斎
田舎者:石田 幸雄 所のもの:茂山 正邦、茂山 茂
茂山 良暢、網谷 正美、松本 薫 尼:茂山 千三郎

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