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2006.01.06

風の音 光の音

これまではのっぽビルの最上階で行われていた
「天空狂言」が、名前は変わらぬまま地上に降りてきた。
場所はお馴染みの大阪能楽会館で、
ちょっと変わった趣向として、お能やお囃子もプログラムにある。

正月二日の昼の部。
「KENSYOスペシャル」“寿能囃子異流派競演”を選ぶ。
それにしても長い名前で覚えにくい。

ナビゲーター(司会です)がTTRの成田さん(小鼓方)で
ゲストが一噌幸弘さんと柿原弘和さん。
関東のかたは見る機会が限られているので
こういうかたちでじかに楽器の音が聞けるのは嬉しいものだ。

いきなりの「神舞」で始まる。

この能楽堂は目付けの柱を外すことができる。
急に広くなった舞台に、正方形に斜線をひいたように並ぶ
六人。
一噌流笛方:一噌 幸弘 藤田流笛方:竹市 学
幸流小鼓方:成田 達志 
大倉流大鼓方:山本 哲也 高安流大鼓方:柿原 弘和
金春流太皷方:前川 光範

音が、
地響きたてて唸り
天から降ってくるように眩めく。
違う楽器の音が交錯して、耳のなかで混じり合う。
普段は、舞台の後方で奏でられているので
もっとこじんまりしているのかと思っていた。
すごい。

客席はお能が好きな人も多かったようで、
いつもの狂言会とはちょっと色合いが違う。

成田さんのインタビュー、メモを片手に丁寧なお話しぶりだ。
笛方のお二人
幸弘さんは『笛吹き小僧』のようなかた。
切り戸口からご登場のとき、隣の席の方が、
「ほら、笛を三本も差してらっしゃいますよ」と
教えてくださる。
よくよく見るとそのとおり。
笛の話しになるとまことに熱っぽく語られる、
ただしギャグいっぱいなので堅苦しくない。
話の途中にひょいと笛を口に当てて、
メロディでお返事されたり、軽やかな方だ。
ジャズとコラボレーションされるのもむべなるかな、
どんな音でも吹き分けられるように、
バッグにぎっしり笛を詰め込んでの来阪だそうだ。

ソロのとき、高さによって笛を持ち替えつつの演奏は
ひらひらと突き抜けて明かるかった。

それに対し、やや口重く答えをされる竹市さん。
まだお若いからか、はにかみながらのたたずまいは
「修行僧」のように見える。
こちらはしっかり和の世界。
調べが、激しくまた嫋々と、
「藤田流はやや遅れてできた流派なので、森田流と
一噌流のいいところをもらっています」と
おっしゃるとおりに、
緩急自在のなかに一本まっすぐに通る芯のようなものが
感じられる音色だった。

その次は大鼓のお二人で、
哲也さんは、しばしば以上によくお聴きする大鼓方さんである。
お父上の孝さんの「音」に惹かれて
大鼓が大好きになった私としては
哲也さんの音はいくつ「大」をつけてもいいくらいに好きである。
「松籟」の音、とひそかに名付けている。
それだけでなく、お話しもお上手、さすが関西人。

柿原さんの大鼓はまだ舞台で聴いたことがなかった。
しかし、「カーン」と鳴ったとたん、
「あ、お父さんにそっくりだ」と思った。
柿原崇志さんは、ベテランの大鼓方で、
この方の鼓なら数回聴いたことがあった。
ききわけるめあてに「森の谺」と名をつける。
森閑とした森の中に響く澄んだ音色。
ゆたかな緑と陽光を想像する。

流儀が違うと「手組」(洋楽でいえば譜面)が違うそうで
同じ曲を二人でなさる。
かわるがわるになるときもあり、
一緒に高く響くときもある。
掛け声も全然違うのだ。
(御曹子、だというところが共通点、と解説が入る)
去年の春、高安流の大鼓の会にゆき、
六人の連調を聴いたが、
その迫力に劣らぬ気合いと音量があった。
舞台の床が細かく震えているようにみえたくらいだ。

最後は「獅子」
去年「石橋」を観ておいてよかった。
能楽堂中に音が乱舞して、
牡丹の花に勇ましく舞う獅子をほうふつとさせる。

あの舞台、この薪能と思い出すのも楽しく終わる。
お能ではないので、終わってすぐに拍手がはじまり
退場まで続く。
お正月にすてきな音楽が聴けた。
ほんとにほんとの「スペシャル・ナイト」

狂言は「蝸牛」
定番だが面白い演目だ。今夜の山伏は茂山宗彦さんで、
こちらも負けじと気合い充分。
相手の無知を逆手にとって、嬲って喜ぶ山伏。
法力に惑わされて一緒に踊る羽目になるのがあきらさん。
止めにきた主人の茂さんともども、
賑やかな小謡で踊りまくる。

今夜は「囃子入り」で先ほどの方々の(地元のかたのみ)
合いの手が入り華やかになった。
謡いながら橋掛りを消えてゆく背中に、
さらりと竹市さんのアシライ笛が鳴る。
夜遊は終わった。

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