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2006.01.09

二人の翁と餅の精

三日目ともなると、当方もかなりくたびれてきて
八坂神社の奉納「翁」に間に合うように起きられるかが
気がかりだった。

えらいもので、ぴしっと目が開く。
寒い。
細かい雨がときおりちらつく。

九時少し前に神社に着いた。
案の定椅子はほぼ満席。
正面はあきらめて、脇正面に回ると、
能楽堂でよく会う女性が、少し詰めて席を空けてくださる。
いいひとだ、ありがたい。
周りにはたくさんのカメラが林立している。
お能は魅力的な被写体らしい。

「翁」は金剛永謹さん。
毎年拝見しているが、どっしり堂々、危なげのない翁ぶりだ。
千歳は宗彦さん。
緑のもようの装束、汗かきの彼も
さすがに今日は寒そうだった。
千三郎さんの三番三。
流れるように美しい型が決まって、「やっぱりお上手やね」と
ひそひそ後方で声がする。
初詣の人が増えてきて、人垣が分厚くなり、少しほっこりする。
鈴の音も清げに舞い終えられたのはちょうど一時間後だった。

次の予定は二時始めの
大槻能楽堂新春公演。
こちらも「翁」

それまでに体を温め、座っていくべしで、
私鉄の始発駅から特急に乗って移動する。

到着したのが開演半時間前。
入口でびっくり、入ってびっくり。
超満員で、しかもまだずらっと指定席引き換えのひとが並んでいる。
たまたま早めに指定券が手に入ってよかった。

取った席は正面やや後より。
舞台を見渡せてよい感じの位置だ。
文藏さんのお能を観るのは二年ぶりになる。

「翁」が始まる前の、きりりとした静粛は気持が引き締まる。
奉納でも充分厳粛なのだが、能楽堂での時間はさらに
密度が濃い気がする。

昨日の「流儀の違い」の催しでは小鼓は幸流(成田さん)だけ
だったが、大倉流とはどう違うのだろうか、
などと思いつつお調べに集中する。

文藏さんの「翁」はみやびやかだった。
姿がいい方で、装束を付けると
すらりとして、たいそう品がいい。
新しい年を寿ぐにふさわしい神さまだ。
さらさらと舞が終わり、いよいよ三番三登場。

三番三は茂山家ご当主、千五郎さんである。
黒地に鶴(亀もありそうだけど)の直垂姿で、
小柄なはずなのに大きく見えるのは気合いゆえだろう。
粛々とした「揉の段」、烏跳びの掛け声に勢いがあった。

鈴の段に移るところで突然、「囃子が合わぬ」と
はたりと舞い止められる。
すると、
揚げ幕からずらずらと人が。
狂言地謡として、千之丞さんを一番前に、
総勢十人が並ぶ。
善竹家と茂山家の合同地謡だ。
また、臼を担いで仙人たちが四人出てくる。
仙人頭は茂山七五三さん。
手下の仙人は茂山家の若手と網谷さん。
ケントクの面が愛くるしい。

ここからが「餅風流」
お能の間に入れ子のように狂言がはいる。
この時間の流れ方が不思議だ。
緊張がまったく緩んでしまい、うずうず楽しくなる。
せっせ、せっせと仙人たちが餅を搗く。
突然、「餅の精」が出てくる。
まっしろに輝く鏡餅のつくりものを頭にかぶった
千作さんが。
ほんに小さくて可愛らしい。

声を張り上げて、新春のめでたさを謡い、
舞台に入って楽しそうに舞を舞う。
どんな役でも千作さんがなさると、
おもしろ楽しいものになる。
今日もやっぱりそうなって、
あんぐり見ている面箱持ちと三番三。
(面箱持ちは茂山宗彦さん)
祝福のあと帰ろうとする二人は千作さんの腰に取り付いたりする。


地謡の声は小さめだった。
十三年ぶり、ってよく知っているひとの方が
すくないだろうし無理もない、か。

狂言が終わって進行は元に戻り、
三番三は「鈴の段」を舞う。
「村のおやじさんが豊作を願って舞っている」ような千五郎さん。
ひょうきんな持ち味がよく出ていてすてき。
型も速さもまったくマイペース。

休憩時間に振舞い酒(及び“甘”酒)が出たのはよいが、
ロビーは人でいっぱいで、またまた順番待ちである。
やっとありついた甘酒、
つい二杯いただいてしまった。

お能は「羽衣」
後見が橋掛りに長絹をかけた時から目を奪われる。
なんと鮮やかな朱の色。

物着で天女が身にまとうと、金色の模様が。
こんなに華やかな天女は初めてだ。
装束の艶やかさとうってかわって、面は無表情で神秘的で
天界のひとらしい深沈さだった。

「宝を降らす」ときに、
慶次郎さんの天女はそっと膝をつく。
その優しいしぐさに感じ入った。


番組表
平成十八年一月三日

八坂神社『翁』
翁:金剛 永謹 三番三:茂山千三郎 千歳:茂山 宗彦 
笛:杉 信太朗
小鼓:曽和 尚靖 成田 逹志 竹村 英敏
大鼓:石井 保彦
後見:廣田 泰三 廣田 幸稔
狂言後見:網谷 正美 柳本 勝海
地頭:今井 清隆

大槻能楽堂『翁』
翁:大槻 文藏 三番三:茂山 千五郎 千歳:武富 康之
面箱:茂山 童司
笛:藤田 六郎兵衛
小鼓頭取:大倉源次郎 脇鼓:荒木 建作 上田 敦史
大鼓:山本 孝 太皷:中田 弘美
後見:山本 勝一 赤松 禎英 地頭:泉 泰孝

狂言   『餅風流』
餅の精:茂山 千作
仙人:茂山 七五三 茂山 宗彦 茂山 茂
   茂山 逸平 網谷 正美
狂言後見:佐々木 千吉 丸石 やすし
狂言地頭:茂山 千之丞

能     『羽衣』
天人:片山 慶次郎
白龍:福王茂十郎 漁師:福王 和幸 福王 知登
笛:赤井 啓三 小鼓:荒木 賀光 大鼓 辻 芳昭
太皷:三島 元太郎
後見:浦田 保利 片山 伸吾 地頭:片山 清司

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