« 「梅」~まだ春浅き夜半に咲く | トップページ | 「容疑者Xの献身」 »

2006.01.24

文楽見聞記

平日に観られる伝統芸能、友人お薦めの文楽に挑戦。
国立文楽劇場は、大阪市営地下鉄日本橋(にっぽんばし)駅から
すぐで、有名な黒門市場の向かい側にある。
目の前を高速道路が通っていて、
景色としてはよくない。
もう少し西に行けば、千日前。東に行くと上本町。
このごろやっと大阪の東西の感覚がわかるようになってきた。


昼の部、十一時始めの分が終わるのが三時半。
休憩を除いても四時間の長さだ。
「椅子」がよくないので座る位置をずらしたり、
休憩のときには、急いでロビーに出たりして、
気分転換してなんとかしのぎきったものの、かなり疲れた。
狭くて低い。

私は年相応の身長である。
しっかり中高年なのだ。はっきりいって足は短い。
その私が座って“低い”座席って、
若い人だったらどうなるのだろう。

舞台の上方に字幕があって、それを見ればいいし、
イヤホンガイドもあり(有料)なので、
言葉がわからない、という問題は無い。
なのにお能に劣らず、高い平均年齢の客席だ。
平日のためか、後方の席(二等席)は空いていた。

友人が取ってくれた席は、
大夫さんと三味線の真ん前。
首を上げると、目が合いかねないほど近い。

いちばん聞きたかったのが三味線(太棹)の音色だ。
音が低めで太く余韻がある。
近いから、弾く手の美しさや、構え方がよく見えた。
糸が震えるのまで見えて嬉しい。
語りの間に糸の取り替えがあり、思わずまじまじと見つめた。
糸を張って、音締めを締めつつ爪弾きで音を確かめる。

少しづつ視力が落ちているので舞台をみるときは
目より耳を重視している。
耳はまだ、きちんと聞こえ、また耐久力もある。
最後まで語りは面白かったし、三味線の音色の美妙さも
よく味わえた。

人形は、細かいところが見えないので
奥の手(オペラグラス)を使った。
登場するときに、すばやくちゃっとのぞき
ざっとみてすぐに下ろす。
着物の柄や、お姫さまならピラピラの簪まで
一瞬で確かめる。
ずっと見つづけていたら、舞台の全体が見えないし
まわりに迷惑だ。(会場が狭いから目立つし)

だしものは「妹背山女庭訓」と「桜鍔恨鮫鞘」
(いもせやまおんなていきん・さくらつばうらみのさめざや)

わたしが期待していたのは「妹背山…」のほうだが、
最初の「桜鍔…」のほうが面白かった。

主人公の八郎兵衛は屋敷奉公人。
古着屋を商う丹波屋のお妻と夫婦になり、お半という娘も儲けたが、
お家の大事に帰宅もまれになっている。
その間に、丹波屋ではお妻に持参金付きの聟、香具屋弥兵衛を迎える。
帰ってきた八郎兵衛はそのことを知り激怒するが、
姑とお妻に愛想づかしを言われ、一旦は怒りを抑えて立ち去る。

娘のお半は弥兵衛に追い出され、外で泣いていると再び
八郎兵衛が戻ってきて、お妻と姑を斬り自分も腹切ろうとする。
そこへ仲間に銀八がやって来て彼を諌める。
お半は父に縋りついて、母お妻から教えられた書き置きを口にする。

実はお妻は八郎兵衛のために、金持の聟をとることにし、
母と共に死ぬ覚悟で骨壺まで用意していたのだった。
お妻の本心を知った八郎兵衛は今度は彼女の遺骸に取りすがって
涙にくれるが、身代わりになってやろう、と言う銀八に後を託し
捕手の囲みを破って逃げてゆく。

筋だけ読むと暗いし、めちゃくちゃ因縁話なのだが
いったん大夫が語りだすとその迫力に引き込まれる。
この段をふたりの大夫とふたりの三味線が語る。

初めはわりと若い組み合わせで
後半(切)は渋めだ。
声の練れ具合が違う。
わたしはお年よりのほうがより好みである。
聞き取れない所だけ字幕を見る。

人形は愛らしい。敵役でさえ、頭は愛嬌たっぷりだ。
子供や女方の頭は写真でみるよりずっと生き生きしている。
始まってほんの少しの間だけ、人形を遣っているひとの顔や、
黒子が気になるが、すぐに目のサイズが人形にあわせて縮んで
よいかげんになる。

嘆く顔も、怒った所作も人形とは思えないほど生々しい。
語り手が“おじいさん”や“おじさん”で、
どの役もひとりで語り分ける。
こちらはまったく問題ない。
夫のために嫌な男の機嫌をとり、その心は夫にわかってもらえず、
子供の行く末を案じる女の哀しみ。
それがじんじんと伝わってくる。

お能と同じく
「若い娘」の頭の人形があるだけなのに、
語りにつれて、役そのものになっていく不思議さ。
舞台は回ったり変わったり、書き割りがあったりで
ちゃんと説明する背景があるので、らくだ。
そこのところは歌舞伎に近い。
台詞と義太夫(節)が相まって盛り上がっていくところが、
なんともいえない快感で、目も耳も満足する。

「妹背山…」のほうは、時代がやたらに古くて、
蘇我入鹿の時代。
でも衣装は江戸時代風。
蓑助さんの「お三輪」の人形、
色っぽさが抜群だ。
しんなりとした所作と赤い鮮やかな着物。
ほんの一部分だけの上演で残念である。
「通し狂言」であるときに見たいものだ。

ひと月おきくらいに公演があるようだし、
平日は席を取りやすいし、
ほんの戸口からのぞいただけだが、
また行くことになりそうな予感がする。
ただし続けるためには、腰のメンテナンスを
しっかりしておかねば。

|

« 「梅」~まだ春浅き夜半に咲く | トップページ | 「容疑者Xの献身」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/78456/8320338

この記事へのトラックバック一覧です: 文楽見聞記:

« 「梅」~まだ春浅き夜半に咲く | トップページ | 「容疑者Xの献身」 »