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2006.03.12

拝むこころ~「盛久」「巻絹」

「研和会」は久しぶり、たぶん二年ぶりだろう。
大阪能楽会館での催しなので
ちょっと遠い感じがする。

それにしても
大阪ではどうしてあんなにみんな速く歩くのだろう。
わたしはほとんど小走りになる。
JRから阪急梅田まで移動するのに、
何度も身をかわして人を避ける、が時々ぶつかる。
年寄りにはまったく疲れる場所だ。

平日の午後の公演なので空いている。
最初は正面に座っていたのだが、
ここの能楽堂は傾斜が緩い。
前列に人の頭があるとかなり見えづらいので
脇正面に移動する。

「盛久」と「巻絹」を観る。
あと、狂言一番と観世清和さんの仕舞。

上田拓司さんが「盛久」のシテなので、
ぜひ観たいと思ってやってきた。
「直面」(ひたおもて)のお能はそれほど好きではなかったが
「安宅」をみて以来
素顔が「面」になることに気がつき、
上田さんはどんな武者ぶりだろう、と興味がわいた。

“平家方の武者、盛久は鎌倉に送られることになる。
彼を待っているのは、処刑しかない。
護送するのは土屋某。彼とは敵味方の関係を越えて
お互いに認め合っている。

都を出るとき、盛久は信心している清水の観音に
経を手向けて旅立つ。
長い道のりの末に鎌倉に着き、刑の言い渡しを待つ間にも
経を上げることを絶やさない。
由比が浜に引き出されて今にも首を討たれようとした時、
強い光が討ち手の目をくらませ、
刀はばらばらに折れてしまった。

前夜、老人が盛久の夢に現れ「案ずることはない。
わたしが身代わりになってあげよう」と告げた。
不思議なことに頼朝も同じ老人の夢を見ていたのだった。
盛久は罪を許されて“御酒”をたまわり、
さわやかに舞い終えて、旅立つ。
仏を信ずるこころが起こした奇跡だった。”


罪人である盛久は烏帽子を着けていない。
これはとても恥ずかしいことらしい。
土屋も駕輿丁ですら、被り物を身に着けているのに。

歩みは静かで沈痛である。
彼をまっているのは「死」以外にないから。
それでもなお観音に経を読むことを怠らない。
上田さんは静止の姿が実に美しいかただ。
清水の観音に祈りを捧げる姿が彫像のようだ。

京を出でたって、鎌倉に至るまでの「道行」は
さまざまな名所を謡が豊かに盛り上げる。
歌枕をたどってはるばると続く東への旅。

土屋氏と盛久の間には、「もののふ」同士の共感がある。
刑の執行される前夜、土屋は盛久の経を聞きながら
夜を明かすのだ。
舞台中央から、常座まで、数歩歩くだけで、
場所は由比ヶ浜にかわる。
閃光が討ち手の目を焼き、刀は折れてはじけとんだ。


御前に召された盛久はきちんと烏帽子をつける、
別人のように颯爽とかしこまる。
御酒を賜り男舞いを舞う。
とても晴れやかに飄々と舞い納めた盛久を
作者は「ゆゆしき」と褒め称える。
これこそまことの武者だと。

いわゆる「お能」的ではないが、平家物語の中の
ひとつの挿話として、後味のよい話である。
「友情」が扱われているのも珍しかった。

さて「巻絹」も、
神の功徳といえるお能だ。
都からはるばる「巻絹」をはこんでくるのが
ツレの大江泰正さん。
相当な大柄のかたで背も幅もある。
この方の相手役はみなさん小柄に見えることだろう。

そして彼は「テノール」で朗々と“歌う”のである。
もちろん「謡って」らっしゃるのだけれど、
その明るさはまるでイタリアオペラのアリアのようだ。
遅参をとがめる臣下は彼を縛れと言う。
だが、たった一重だけの縄目では泰正さんが
「うんっ」と力を入れると、切れてしまいそうでおかしかった。
神妙にお縄についている泰正さんと、
怒っている知登さん、観ているほうはとても楽しい。

とそこへ、揚幕の中から声がして、
(きれいなバリトン)
音無天神の巫女(実は神が憑いている)が登場する。
山本章弘さんの舞台は三年ぶり。
そのときは、「碁」のツレ…軒場荻の役を
なさっていた。シテの空蝉は観世清和さんだった。
そのときはとても大柄な方、という印象を持ったに過ぎない。
改めてこうして見ると、ややふくよかめではあるが
面と横顔がなだらかでうつくしい線を描いている。
ふうわりしてやさしげな巫女である。

巫女が持っている幣は白梅の枝に付けてある。
それが今の季節をあらわしてとても風情があった。
また白地に金の模様が浮き出た水衣の下の
小袖の模様は紅梅で
つぼみの紅がちらちらと見える。

神がのり移った巫女はゆっくり神楽を舞う。
親しみやすく優しく舞う。
舞いにこころ解けた臣下は役人を許し
巫女は神がかりから覚める。
「歌を詠む」ことは神を大切に思うことなのだとしたら、
その文化は絶えて久しい。

「和歌」の力は他のお能でも説かれることが多い。
言葉に宿る「まごころ」は神の意にかなうのであろう。
まとまりのよい楽しいお能だった。

「巻絹」の地謡の声色はやや低めで渋く、
私の好みに合う。

お能の会には珍しく、付祝言があり、
「颯々の声ぞ楽しむ」と高砂でめでたく終了した。

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