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2006.06.12

奈良一日(ひとひ)

在原寺を探して不退寺に行きついた。
業平を祀るお寺である。
本で読んだり、お能がらみの場所に行って
写真を撮るのがいまの楽しみ。
これからの季節は体力が不可欠で、ちょっと心配だけど。

夏が来る前に、奈良には一度行きたいと思っていた。
博物館や正倉院展以外に長らく訪れたことがなかったから。

丸一日外出するのはわりに珍しいことなのだ。
休暇を取った家族が留守番してくれるというので
出かける。

「奈良1dayチケット」を買う。
これまた私鉄(近鉄)とバスが乗り放題の切符だ。
かなり割安になるのが、“家計に優しく”とても助かる。

乗り継ぎがうまく行ったので、予定より早く奈良に着く。
せっかくの空き時間を無駄にすまい、と
循環路線で予備の予定だった春日大社へ。

奈良公園は広いなあ。
お寺がたくさんあるなあ、と
あらためて感じ入る。

「春日大社前」で降りて参道を
十分ばかり歩く。どうも裏参道らしかった
石灯籠も樹たちも広い空も
私が思う奈良のイメージどおりだ。
意外に人通りが少なく(裏だからだね)
すぐに「神苑」に着く。
以前は「万葉植物園」という名だったそうだ。
みっしりと万葉集ゆかりの植物が植わっていて、
古代好きにはこたえられない。

藤の苑もあって、なるほどここは藤原家の神社だったんだ、
なにしろ一区画全部が藤とは豪勢だなあと思う。
盛りのときに来たいけれど、ちょうど
大型連休のあたりが満開の時期だから
またものすごい人出だろう。
池に張り出している遙拝所は、
端午の節句に、舞が奉納される舞台である。
いま、誰もいないそこは、鯉の天下で、
やや濁った水面がとろりとして静かだった。

本殿にも急いでお参りし、
摂社を見つける度に、祀られているのはどなただろう、と
説明を読みつつ道を急ぐ。
石灯籠も数多く、朱塗りの回廊はぴかぴかで、鹿もあちこちに、
これぞ奈良の風景としかいいようのない立派な神社だ。
こんなに長い間栄えているのに、手垢がついた、感じにならないのが
不思議な」気がする。
宝物殿は割愛。
迷っているそのときに、一団の修学旅行生だちが到着して
あっという間に前庭は
社会科の教室に早替わりしたからだ。

バスを乗り継いで西大寺方面へ。
道路は広くて綺麗だけれど、かなり郊外に来たな、
と思われるころあいに
不退寺前に到着する。

案内にしたがって、やや狭い道に入ると
JRがのんびり通り、急に緑が多くなる。
小さいけれど田んぼだってあって、
田植えが終わっていて苗がそよぐ。
とても懐かしい風景である。

そんな中にお寺はあった。
境内は狭い。でもいっぱいの緑が眼にまぶしい。
本堂も古びのついており
木の格子が相当色あせている。

業平忌には特別に公開されるものもあるらしいが
拝観料をはらってお堂にあがる。
私のほかには一組のご夫婦だけ。
年代もあまりかわらないようだ。
初老のお坊さまが、たんたんと慣れた調子で
お寺の由緒、仏さまの来歴を語られる。
節がついていてそれが面白い。

本尊は観音さまで「業平公が手ずから刻まれ」たのだそう。
ああ、そういうことになっているのだな、と
近くに寄って、目を見開いてしかと見つめる。
彩色は剥げているが薄く文様が描かれた跡が残っている。
立派で力強い仏さまだ。
こんどお寺に行くときはやっぱりオペラグラスを持ってこよう。
日差しは強く、ほの明るい中だったから、
目鼻だちまで見えたけれど、
どこのお寺も奥まって祀られているご本尊は、
私の視力では、ぼんやりとしか捉えられない。
それがいつもあとで悔やまれるから。

業平の父、阿保親王の像や、近隣出土の瓦など
展示物をさらっと見終え
お礼を言って外へ出る。
お坊さまは正面の格子戸をから出てきっちりと鍵をかけられる。
そうか、拝観の客が来るたびごとに、
案内をしてくださるのか。


ここが「井筒」の舞台かしら。
そう思ってみると、この寺に花を供えに来る女は、
緑の庭のどこにでも、すうっと消えてしまえるようだ。

変にこぎれいに作り込まれていない庭は、
一隅にあるお堂に突き当たり、
蝶がどこからともなくひらひら舞って来、
蜘蛛の巣が陽に輝いている。

陽に炙られすぎて、喉は渇くし汗まみれだし、
それでももう一カ所、予定していた
尼門跡寺の法華寺へ。
バスで一駅の距離だったので。

結果を言ってしまうと、
お寺は立派だったが、拝観料も高かった。
お庭は二カ所あって、御所写しのお庭は型としては
とても美しいが、
見る場所がひとところに限られている。
庭の中を横切ったり、池にかかる橋を
渡ったりはできない。
正面顔だけで「美人」と思え、と言われているようで
ちょっといただけなかった。

ただ、偶然にも、十一面観音さまご開帳の日で、
普段は頼んでも拝めないそのお姿を
拝見することができた。(その分料金が上乗せされたが)
広い本殿に立たれたお姿は、肌の色合いさえも
あでやかで優艶だった。
ゆっくり拝めたらよかったのになあ。
ひきもきらずに観光客が出入りし、
説明はテープでエンドレスに流れる。

ほとけさまを拝んだり、昔のさまを偲んだりするには、
静かな時間がとても必要だ。
次回の奈良行きはもう少し足を伸ばして
秋篠寺方面へも行きたい。
池と古墳の佐保の里、似合うのはやはり春だろうな。

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