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2006.07.24

しっかりした敵討ち・「望月」・TTR能

天気予報は曇り時々晴れ所により雨、、
なんでもありで気温は高い。
タオルハンカチを離せない蒸し暑さ。
夕方の梅田はこれでもか、というくらいに人が多く
HEP近くでは若い人がほとんどで、
圧倒されつつ道路のはじっこを歩く。

座席指定を取っていたから時間は充分あったが、
はやく人混みから出たかった。
やっと着いた能楽会館も人がいっぱいで
お能の公演というよりも、コンサートなのかな
と思われるほど客の層が若い。

「望月」は去年一度だけ観た。
そのときが脇正面だったので、
似た角度から観たいとおもって中正面に座る。

エアコンがごおごおと音を立てている。
冷気が肩と首にじかに当たって痛い。
これで最後まで保つだろうかと、やや不安だった。
会館備え付けの毛布を借りて万全の体勢を整える。

最初に解説、お能が始まったのは午後八時で、
少し遅めだが、仕事帰りの人が充分間に合うように
というこの配慮はすてきだ。
わたし個人は帰りが遅くなるのは困るのだが、
映画や演劇を観る感覚で能楽堂へ、というとなのだろう。

解説は河村晴道さん。
このかたのシテは未だ拝見していないが、
すらり姿よく、ふわっとした、よい感じの方だ。
声も話し方も落ち着いていて好もしい。
街の喧噪とは正反対の静けさ、
「さあ、お能の時間だ」という気持ちになる。

囃子方が揚げ幕から登場。
TTRのお二人の舞台を観るのが久しぶりだ。
笛の竹市さん、太鼓の前川さん、
みなさん若々しい。
舞台がぱあっと華やぐ感がして始まる前からわくわくする。

「望月」は敵討ちの物語で、シテは直面で演じられる。
そのシテをなさるのは味方玄さん。
いまは宿屋の亭主だが元は武士、という役どころ。
藍色が基調の装束に、色白の貌が映える。
声もよく語りも綺麗で力がこもっている。

そこへ登場するツレと子方。
主の昔の妻と子である。
痩せた肩に敵を追う暮らしに疲れた感じがぴたりのツレ、
装束も紅無でまことに地味である。
子方は愛らしく堂々としている。
赤松裕一くんでお父上が今日の後見だ。
ふっくらした下ぶくれの顔、けっしてどなってはいないのに
声がとてもよくとおる。
これからが楽しみな方だ。

主と母子が再会し、寝所へ引き取った後、
なんと敵の「望月」(欣哉さん)主従が宿を求めて
訪いを入れてくる。
宝生欣哉さんと茂山千三郎さんが演じる。
千三郎さんのアイ狂言は久しぶりに観る。
ドラマティックなお能なので、彼の熱っぽい語りや
剽軽さがよく似合う。
欣哉さんはすっきりしたたたずまいと、
やや嗄れた地声が静かななかに権威があり、
とても感じがいい。

謡、鞨鼓、獅子舞 と続くものづくしが見もの、と
はじめの解説で聞いていたが、そのとおりだった。

謡は盲目ごぜのツレがする。
やつれた感じがした前シテが、
水衣をつけて盲目のふりをし、子方に手を引かれて
登場する。杖を持つツレは、さらに影薄くみえる。

と、ここまで観てきて、
あまりの寒さに耐えられず、席を立ってしまった。
冷気が肩を直撃する席だったのだ。
最後方まで下がると冷気が来ないのがわかり
再入場して続きをみる。
そのほんのちょっとした間に、
子方の鞨鼓は始まってしまっていた。
赤松くんのハコビは、堂々として美しかった。
舞がみられなかったが、まずはよかった。

そして、扇を二本使って獅子の顔とし、
赤い頭と面布をつけてシテが登場する。
中入り後の装束は意外に地味で、
銀色が基調の小袖姿だった。
頭の赤が銀に映えて華やかである。

囃子に合わせて獅子が舞う。
同じ型を繰り返しているだけなのに、
ひとつづつの動作が無駄なく美しく、
乱れなく完璧な舞である。

突然、太刀が抜け落ちた。
音を立てて転がるのを、まったく気にせず舞うシテ。
そして、微動だにしない子方。
感心して心の中でため息をついた。
するすると後見が、舞に障らぬように進み出て
なんなく太刀を拾ってまた後ろに下がる。
まるで計算されているように綺麗な仕草だ。

劇はいよいよ大詰めで、
酒を過ごしてうつらうつら寝ている望月は、
黒い笠をワキ座に置いて、すいと切戸口に消える。
笠が敵の形代とはなんとも粋なことだ。

シテは小袖をひきかずいてその中で頭や面当てを取る。
ぱっと一度小袖を外した彼に、
悠々と後見が太刀を履かせる。
立ち上がって小袖を放ったときはもう、
仇討ちのためのはちまき姿だった。
きりりと流れるような身のこなしで
子方を介添えして仇を討つ。
笠に向かって詰め寄るふたり、
優しく、子方の背を押すシテ。
それは見事な舞姿。

本懐を遂げたふたりは橋がかりを帰る。
満足そうな子の顔。
良かったというシテの顔。
表情が無いのに、気持ちが伝わってくる不思議。
「顔」なのに「面」になっている直面の効果。
うねるようなお囃子と、力がしっかりこもっている地謡、
息を詰めてみている見所、
相まって築かれた豊かな舞台が終わった。


盛大な拍手が起こる。
お芝居の後のカーテンコールのようだ。
いや、面白かった。美しかった。
良いものを観て幸せだった。

でも

わたし個人は、拍手がないほうがいい。
舞台で刻まれる時間からゆっくり現実に帰れるほうがいい。
華麗な夢が終わった後に、
ゆっくりかみしめる時間が、好きだからだ。

ただそれもひとそれぞれ。

TTR能プロジェクト2006公演
 7月14日(金) 大阪能楽会館  PM7:30
解説 河村 晴道

能【望月】
シテ 小沢刑部友房  味方 玄
子方 荘司友治の子  赤松 裕一
ツレ    〃   妻  寺澤 幸佑
ワキ 望月秋長     宝生 欣哉
アイ その下人     茂山 千三郎

後見 片山 九郎右衛門  赤松 禎英

笛   竹市 学

小鼓  成田 達志  大鼓  山本 哲也

太鼓  前川 光範
地頭  片山 清司

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