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2006.12.07

神も願いのあるゆえに…「三輪」

今年最後の友枝さんの公演は
大槻能楽堂自主公演
  70周年記念 特別公演「三輪」
去年もそうだったがきっちり満員だった。

都合で着くのが遅れてやっと仕舞に間に合う。
予定ではこの仕舞「雨月」は
粟谷菊生さんだったのだが。
先日、お亡くなりになったので
粟谷明生さんがなさる。

プログラムにはまだ菊生さんのお名前が載っていて
それがかなしかった。
しっとりした舞ぶりで、若さがある。
一番後ろで立ち見していたので
細かい部分がよくみえなくて残念だった。


堂々と立派な僧が登場して庵に入る。
毎日のように、樒を持ってお詣りに来る女が
何者なのか、と不審の言葉を述べる。

「今日、そのひとが現れたなら、
名を聞いてみなくては」と言う間に
橋がかりに女があらわれる。

みどりの「しきみ」と水晶の数珠を持ち
小柄で楚々としている。
装束は、銀と茶の段替わりで
地味な感じ。
面も静かで無表情にさえみえる。

女はしとやかに片膝をついて
僧に「寒い秋の夜になりました。
どうぞ衣を一枚、くださいませんでしょうか」
と頼む。
「たやすいことです」と僧は衣を与え
帰ろうとする女に、
「あなたはどちらのかたなのですか」と問いかける。

それにこたえて女は、
「お訪ねくださるなら、杉の木を目印にお越し下さい」と
謎めいた言葉を残して帰って行く。

歩みはいつものとおりの確かさと美しさだ。
脇正面から見ると面が顔になりきっているのが
よくわかる。
そしてこの日、
気がついたことがもうひとつあった。

女が片膝ついてワキに向かうときの
左足の上に体重を乗せていらっしゃらない。
立てた踵をおろしたときも、
わずかに体は浮いている。
それだから、背中はすっきりと伸び、
装束にたるみもでないのだとわかる。

「よく姿勢をごらんになれば
どうしてあんなにお綺麗なのかわかりますよ」
教えてくださったかたがおられた。
きっとこのことに違いない。


女が舞台の上の作り物の中に入ると、
アイ狂言が登場して、僧と長い問答に入る。


その間、装束替えに三人の後見は大忙しである。
そのようすが脇正面席なのでよく見える。
シテ本人は、作り物の幕の中だが
脱がれた装束がざざっと畳まれて、
引いて行かれるようす、
袴を広げたり、面の入っているらしい袋を
急いで持って来られたり、と
舞台の表で続いている語りよりも、
裏方のあれこれが面白く、
そちらをしょっちゅう見てしまう。

アイは退場するころに
無事装束替えも終了。
「杉のひと枝にかかる衣」、という思い入れで
僧の与えた衣が、ふわっと作り物の上部に懸けられる。


三輪の杜に来て、
それを見つけて不審に思う僧。
すると、
樹の中から声がする。
未だ姿は見えないが、ゆっくり伸びやかに
気持ちをうたいあげるのは、
「神」なのだ。

驚く僧の前に、神はやっと姿を見せる。
後見がするすると布を外すとそこには
金色の烏帽子をつけ、
白の衣に上の衣も白。
輝かしくも純な神が座っている。
玉結びの紐と袴は緋の色。
左の手は白い上の衣の端を軽くつまんでいる。

左右に入るときに、両手がすっと上がり、
ふうわりと袖が揺れる。
ゆっくりと地謡のほうを向いてひとあし、
脇正面に向きなおられると
すっと伸びた扇と微笑んだ面が目の前である。
天人のようにあどけなく
ふくよかな面である。

神楽のときは
天から、ひかりが降ってくるようだった。
ゆったりと眠くなるくらいの穏やかさで
舞は続く。

くるくると舞は急になり、
お囃子もどんどん早くなる。
笛も太鼓も鼓も、一斉にひびきわたる。

足拍子はたしかな音で、しっかりと
大地を踏みしめるおもむきがある。

わたしは一昨年、三輪神社のお祭りで
奉納能の「三輪」を見た。

その日の後シテ(神)の装束は今日とほぼ同じだった。
神とひとが出合い、
聖なる山の麓でお囃子は
空に散ってもなお明るかった、

能楽堂の中なのに、
友枝さんの神楽舞は
ひとびろと澄みきって
神に捧げる巫女の舞、
いや、神そのものがあらわれて
舞っているようだった。

舞うにつれて面の表情が変わる。
少女から、女のようにも、少年のようにも、
さまざまな顔になって神は遊ぶ。

神はひととであって楽しかったのだ。 

☆大槻能楽堂自主公演
  70周年記念 特別公演「三輪」
平成18年11月25日(土)
【能】 三輪~神遊
   シテ 友枝 昭世 ワキ 福王 茂十郎
   アイ 丸石 やすし

   笛  杉 市和  小鼓 成田 達志
  大鼓 白坂 信行 太鼓 前川 光長

  後見 高林白牛口二 中村 邦生
      佐々木 多門

  地頭 粟谷 能夫

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