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2006.12.26

「ロープ」…野田さんのベトナム

野田さんの舞台は今までに
一度だけ観に行ったことがある。

今でもはっきり覚えているが。
題名は「半神」
原作がわたしの好きな萩尾望都さんだったので
期待してでかけたっけ。
それが、セリフが速すぎて聞き取れず
「よくわからない」ままに劇は終了。
残念な思いだけが残った。
それが七年前のことだ。

この一年、橋本じゅんさんの芝居をみ続けてきた。
東京公演しかない「ロープ」に
行くかどうかとても迷った。

野田さんの芝居と自分の相性ってどうなのだろう。
そこのところも興味があるな、と思ったときに
決心がついた。
会場のシアターコクーンは、
観世能楽堂よりは渋谷の駅から近い。


地図で確かめながら歩く。
うるさいし人は多いし、道はうろ覚えだったが、
なんとか文化村に到着する。
まずコクーンの位置を確かめ、
それから座って待てるスペースを探す。

建物の真ん中に吹き抜けがあって
いまはX'masシーズンだから、どの店もしつらえが
緑と赤で統一されている。
当日券を買う人の列が長く続いている。

まわりの銀杏並木が葉を落としていて道がいちめんに黄色だ。


2時に開演。

野田さんのテンポが落ち着いたのか、
私が芝居に慣れたのか、ちゃんと台詞が聞こえる。
「ロープ」とは、プロレスのリングのことだと
ネットの記事で読んでいた。


舞台にはドアが二つ
リングがやや下手側に、
その下には人が隠れるのに充分な高さがある。
お能の作り物に似た、
エンピツ型の小屋がその手前にある。

登場人物は、弱小プロレス団と、
試合を撮影に来た弱小ケーブルテレビ局員に分かれる。

その間に“入国管理ボランティア”(ボラ)氏がおり、
さらに、自分は「コロボックル族」と名乗る謎の女性が
リングの下に住んでいる。

プロレス団跡継ぎの若いレスラー、ヘラクレス・ノブナガが
藤原竜也くん。
ヒール役(グレイト・今川)が宇梶さん。
(織田信長と今川義元のパロディ)

ひきこもりのノブナガくん。
レフェリーのサラマンドラ。
もうひとりのレスラー、カメレオン。
プロレス団はこの三人。

対して
ディレクターD氏が野田さんでその奥さんが渡辺さん。
AD役が三宅さん。
この三人はいつも一緒に行動する。

さて、コロボックルと自称する少女「タマシイ」
(とても野田さんらしい命名)は、
たったひとりで暮らしている、らしい。


お話は軽妙に始まる。
ノブナガとタマシイは出会うけれど
会話は行き違ったりとんちんかんになったりする。

タマシイに隠し撮りの現場を見つけられた、
テレビチームは、自分たちも「コロボックル」だと
嘘をついて、彼女に隠しマイクをつけさせ
試合を実況させる。

グレイト.今川が重傷を負うという
残酷な結果になった試合だったが
その実況の視聴率が「好評だった」と
チームとレフェリーは知らされる。
どちらも「ユダヤ人社長」から。

次の試合は、“社長”の指令に従って、
今川は「覆面」を被って、顔を隠すて登場する。
(そうすればみんなに愛される、と思いこまされて)
顔が無いことはこわいことだ。
マスクをつけた一団がリングにあがるだけで不気味である。

ノブナガとカメレオンがジャージを脱ぐと
その下から迷彩服があらわれる。
さらに怖さの度合いが増す。
はっきりと戦いを予想したから。

タッグマッチはエスカレートして
ついに銃が登場する。
知らない内にひとりがこっそり弾丸をこめ、
違うひとりが引きがねを引く。

そのあたりから、リングの上には鉄条網が下りてき
ヘリのエンジン音が、会場を揺るがす。
見えない敵と戦う恐怖。
戦いをやめようと呼びかけ合うが
頭を出すと的になる。
ついに、ノブナガもカメレオンも、
マシンガンを乱射しつつ絶叫する。
「やられる前にやれ」
「ベトコンを皆殺しにしろ」と。
(そこはもう、ベトナムで、戦うふたりは
米軍のコマンドだ)

わらわらと、舞台に走り出てくる人々は
アオザイを着ている。
彼らは「名前」を持ったひとたちだ。
タマシイは実況する。
「ミライ村」(ソンミ村)の虐殺を。
4時間でこの世から消えた村のことを。

次々に繰り出される言葉は確かに
プロレスの実況風だが、内容は聞いているのが辛い。
人間の仕業とはおもえないほどの残酷さ、

それをしているのが、
ふだんは気の良い男のカメレオンだというのがかなしい。
(じゅんさんは迫真の演技、どう感じればいいのかとまどう)

目がくらんで殺し続けるカメレオンにくらべ、
ノブナガはすこしづつ醒めてゆく。

彼は戦場から離れ(リングから降りて)
そこで、ベトナム人の若い母(宮沢りえの二役)と出会う。

この劇の中で一番美しく哀しい場面。


二人の言葉は通じていないのだけれど
その掛け合いは
お能のシテとワキのように音楽的だ。
声の響きと見交わす目と目。

産み落とした赤児を託す手から力が抜ける。
命が喪われてゆくときに女(タマシイの母)は
花がしおれるようにくずおれた。

一瞬茫然とした青年だが、
託されたものを胸にかかえて、旅に出た。
故郷には帰らずに。

その青年がタマシイの父だと、
入国管理官のボラは言う。

はたしてそんな兵士がいたのか、
タマシイは本当に存在したのか。


再び舞台が明るくなる。
みんな憑きものが落ちたように屈託がない。
チームは視聴率を見誤っていた、と
もとの和気藹々な雰囲気に戻って次の対象を探しにゆく。

サラマンドラとカメレオンは
「ユダヤ人社長」の紹介で、
新しいプロレス団に参加するために、
荷物を抱えて旅に出る。
「最後までやり通した褒美だよ」とサラマンドラは
得意そうに言う。それでいいのか、本当に、と
わたしは心の中で思う。


無人の舞台にノブナガはひとり立っている。
かれは「タマシイの思い」を抱いて旅立つ。
いままでと違った生活へ。

最後にリングの下に差し入れられた食器は
ノブナガが去ってのち、
静かに舞台上に返される。
受け取ったよという合図。
わたしはここにいると言う印。


みごとな、反戦メッセージである。

ただ、くっきりと戦争の悪を示すシーンよりもわたしは
日常にひそんでいるもののほうが怖かった。

(視聴率のためなら何をしてもよい、とか
自分の考えを持たずに他人に預けてしまう“善人”とか)


そんなふうに思うのはわたしが
ベトナム戦争当時、すでに大人だったからだろう。
毎日のようにテレビや新聞でそれを見聞きしていた。
あの日々を思い出すのはつらい。

時代の空気を伝えるのは難しい。
終わって長い時間がたってはじめて
語られることも、わかってくることもある。

毎日、何気なく単調にみえる暮らしを続けていけることが、
とても大切だということを、
あらためて確かめた舞台だった。
もう少し、穏やかなものいいのほうがよかったかなとは思うが。

若いひとたちには、はっきりと「言葉」で
伝えることが必要になっているのかもしれない。
いま このとき。

【キャスト】
タマシイ ・        宮沢 りえ
ヘラクレス・ノブナガ  藤原 竜也
JHNDDT          渡辺 えり子
カメレオン         橋本 じゅん
グレイト・今川       宇梶 剛士
AD              三宅 弘城
入国管理局ボラ      松村 武
明美姫           明星 真由美
レスラー北         明樂 哲典
レスラー南         AKIRA
D              野田 秀樹

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