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2007.04.10

「朧の森に棲む鬼」

観に行ったのが二月の終わり。
さすがに印象が遠ざかってしまったが、
以来、舞台にご無沙汰なので、
捨てがたくて書いておく。

☆☆☆☆☆

取れた席が、前から二列目のやや右側、という
かってないほど舞台に近い席だった。
仰向き加減でみないといけないので、いささか首が疲れる。

初めて来たこの松竹座、
客席の扉を入って前まで行くのに、ずっとスロープで
とても楽である。
ロビーも広く、最近のお洒落な洋風のホールよりはるかによい。
昔は映画館だったと聞いたが
細々とした部分に気づかいがあるのが
歌舞伎の底力かな、と思う。
(当然、食事もできる)
舞台は奥行きが深くやや前下がりになっっているが
わたしの席は前過ぎて
奥の部分の芝居や仕掛けが見えづらい。
花道にはやや距離があるが、大劇場ではないから
しっかりと役者の顔が見える。
このくらいの規模の劇場が、一体感があって落ち着く。

トイレの数が多くてびっくりした。
上手からと下手からとに入り口があり、計二十の個室、
いらだつことなく用が足せる。

お話は平安時代風、…エイアンの都とオーエ国が争っている。
戦場稼ぎの土民、ライ(市川染五郎)と
キンタ(阿部サダヲ)が登場する。
ぼろぼろの衣装で、きたなくて土まみれだ。
朧の森に入り込んだ二人、キンタは寝てしまうが
ライは不思議な三人の女に会う。
連獅子のような(お能で言えば「石橋」)
白い長い毛をたらした三人の魔女。
(秋山奈津子、高田聖子、真木よう子)

歌は秋山さんと高田さんが貫禄で上手い。

禍々しい森の幻影のような場面、ドライアイスのスモークや
照明で“らしい”雰囲気が出ている。

ライは魔女に唆されて「王」になろうと決心する。
彼女達のする予言は、「マクベス」に出てくるものによく似ている。
その言葉に二重の意味があるのだ(後でわかるけれど)
「お前は自殺以外の方法では死なないだろう」と。

ひたすら口だけ回る、小悪党のライが
剣を手にした瞬間に、変に自信たっぷりになる。
彼の舌と、剣の切れ味は魔女たちの言葉どおり、
直結していることがすぐ証されたからである。

ひたすらライを兄貴分と慕うキンタは
とても可愛らしく、軽々と飛ぶように動く。
こんなに身軽なひとだったのかと
改めて感心する。
高めの声だけど滑舌よくはっきりしていて、とても聞きやすい。

染五郎さんは、たまに語尾が滑る時があるのだが、
歌舞伎調にキメるときの声は、さすがにすごい。
六法を踏んで幕内に入っても、ただ走り込むだけでも
それがすべて舞踊の型になっているのだもの。


ヤスマサを鬼の力が宿った刀で殺して
手紙を奪い、
オオエの民をうまく言いくるめて
ふたりはミヤコへやってくる。
オオエの首領、シュテンとして
真木ようこさんが再登場だ。
殺陣はちょっとばかりぎごちないかな、とおもうが
堂々とした声のハリが爽快である。
後述のツナもそうだが男っぽい衣装がよく似合う。

ラジョウの酒場でライとキンタが安酒を飲む場面は
いかにも新感線風の衣装としつらえ。
提灯の字が面白い、
また、壁にかかっているタペストリが
意外に洋風なのである。

マダレ役で登場の古田さん、
五右衛門みたいな髪型でおかしい。
ちょっとワルそうでエラそう。
無口なのがライと対称的だ。
場面転換は早いし、つなぎも工夫があって楽しめる。

すぐにミカドの居室(宮中)に変わる。
ミカドはなぜかモモの絵がついた衣装を着ている。
聖子さんもおそろいのモモをつけている。
田山さんは、ほんわりと笑いを誘うキャラクターで楽しい。


女官達の舞い…群舞は新感線らしくてとてもカラフル。
聖子さんの役名はシキブで、ミカドの愛人、という役回り。
軽やかな聖子さんの存在感がいい。

(真面目な役もコミカルな役もこなし、
さらに愁いのある女にもなれる。好きだな)

ミカドが登場する場面のはじめのほうは、
このつらい劇の中でちょっとばかりほっとできるシーンだ。
シキブとツナがひとりの男(ヤスマサ)を
めぐってのライバル関係で、
友だちでありながら、裏はけっこうどろどろ、という
微妙なところがよろしかった。

秋山さんがかっこよいのは
武人としてのストイックなところと
夫を想う女らしいところ両方しっかりと
見せてくれるところだ。
声と体の切れはとても決まっていてすてき。
顔が小さくてスタイルがいいからモデルのようだし。
衣装のうちでは、
カルメンふうの黒いドレスに白い花を飾った
「女」姿がいっとう良かった。
情熱を秘めつつ、凜としたおもむきがあって。

物語そのものは、お約束の順に進む。
二つの国(ヘイアン対オーエ)、それは山国と都会。
また上流と下流(宮中とラジョウ)、というように
相反する二要素が絡みあってゆく。

その中にあって、ぼろを着ていても陽気だったライが、
出世していくにつれての装束の変化が、凄い。
どんどん煌びやかに豪華になる衣装、
しかし、顔は反比例して、冷たく無表情になってゆく。
赤を基調とした検非違使のときは
まだ表情に起伏があった。
なのに将軍として登場したときはそれが減った。

黄色な狩衣風の装束で位の高い公家風の衣装になった後、
黄金と真紅に飾られた大将軍として登場したときには
「魔物」のような不気味さが漂う顔へと変貌していった。
話し方も歌舞伎っぽくなった。

悪党役の古田さん、
とても可愛げのある役どころで、
あまりしゃべらないのがよい。
ちょっとした間合いのときにうかべる表情が、
コミカルなのでどっと笑いが起こる。

ただの悪者ではなくて
最後はツナと生き別れの「兄妹」と分かるのだ。
この「驚き」の種明かしが
歌舞伎っらしくてよい。
分かった後も大見得を切るわけでもなく
照れつつ(そんな感じに見える)
妹をかばって戦う場面も、人(ニン)に合った役だ。

「実は兄妹…」というのが、伏線がみえみえで
早くわかってしまうのが残念である。

しかし、誰よりもすてきで、生き生きと劇を引っ張って
いったのは阿部サダヲさんだ。
(はじめのほうでも書いたけど)

語らせても、歌わせても、殺陣をやらせても、
軽々と楽しそうにやってしまう彼に見ほれてしまった。
彼のキンタが活きているから、ライの存在が映えるのだ。

朧の森での戦いで
それでもまだ言葉でごまかそうとするライに、
「目がみえないからはっきりと、アニキの嘘がわかる」と
言ったキンタは、あえてライのトドメはささない。

血まみれのライが、
呪いの言葉とともに、その舌を休め、
森の木々に呑み込まれて髑髏と化する場面は、
お見事、いうほかない妖しさだった。

終わり方が少しあっけないように感じた。
だが、登場人物のその後や
“朧の森”はどうなるのだろう、など
劇の続きを想像すると
じんわりと楽しさが沁みてくる。
この緩やかさがとてもいいのだ。

次回の“新感線”は、
いのうえひでのりさんの作だそうで
真夏の観劇になる。
夏はつらいが、関西から公演が始まるので
楽しみである。
題名は横溝正史のパロディのように思えるが、さて。

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