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2007.07.25

新しい革袋…「犬は鎖につなぐべからず」

青山で舞台を見るので近くに宿を取った。
これで終演が遅くなっても大丈夫だから。

この芝居を見ようと思ったのはまったくの偶然
もともとは次の日の
お能を見に行くだけのつもりだった。
遠出するのはいいが日帰りでは疲れもたまる。
気に入った芝居があれば前の日に行けば、
交通費は一往復分で二つの催しが見られるぞ、などと
欲張ったことを思いついてしまったのだ

その気になって劇場を検索してみて
気に入ったのが、このお芝居
岸田国士は文学史でしか知らないが
演出がケラさん(「噂の男」)だし、
知っている役者さんも出演してるから
というのが理由である。

あいにくの雨降り、
宿から劇場までてくてくあるく。
宿は宮益坂を上りきったところだが
まだ坂はゆるく続いていてふうふうと息が切れる。

計算通り五分少々で
劇場前に着いたが、早すぎて入場不可、
しかたがないので屋根のしたで待つことしばし。

「円形劇場」ってほんとに舞台が円なんだ
“丸に十の字”縦の棒の頭のとこが一段高く
舞台になっている。さらにその上も使えるスペースだ。
丸い部分はなだらかなスリバチ状の底にあたる。
たいていの芝居はそこで行われる
あとの三方は花道のようでどこからも人が出入りできる。

頭の部分以外が客席である。
すりばちの幅の縁がぐんと広くなったような具合だ。
椅子が少しましな折りたたみ椅子ようのもので
クッションないのね、というしろもの
しかも狭い。
ちょっと大柄なひとだと体ごとはみ出すに違いない。

そう思っていたら、隣の席は、
お相撲さんみたいにでっぷりした、若い男性だった
思わず椅子をずらす。(動くのは便利だ)
見渡すと満員の客席に男性が目立つ。
年配者はとても少ない。
若い人が多いのはもちろんだが
ファッションは全体に地味である。

その椅子に固まったままの三時間
腰が休憩まで保つかしら、と心配だった。
ところが始まったら、すいっと舞台に集中できて
さらさらしたオムニバスストーリーにしっかり浸れた。

四列目なので役者さんの顔目の前だ。
なにぶん知ってるひとは限られていて
名前だけしか知らないひとがほとんどである。

台詞はとってもよく聞こえる(何せ近いし)
原作は古い時代のものなので
せりふも古風な言い回しが多いが
古典ほど難しいわけでもないので
“お芝居”だなあ、と楽しんでついて行けた。

着物はライトに映えて鮮やかで綺麗。
監修は「豆千代」さんだそうだが
(有名なひとなのかしら)
どのひとの着物もお洒落だ。
新しい色柄なのに古風さも漂っている。
女優さんたちの髪型は昔風で
襟足のラインも清々しい。

取り立てての筋は無いに等しい
〈ある町内の人間模様が描かれている。
題名の犬、が狂言回しの役割も兼ねている。
(犬はぬいぐるみなのです)
犬が近所の家から靴をくわえて隠した事から
起こるドラマがさらりと描かれる。
対照的な二組の夫婦
身分違いの恋人達
貧乏文士
やり手の実業家の家族、
それぞれ軸を変えながらスケッチ風に
短い時間でお話が網の目のように重なっていく〉

泣くほどに緊張を強いる舞台ではない。
ほのぼのとした気持のままでゆるやかに
しかし全く退屈というものをしない、不思議な舞台だった。

時々ダンスがある。
むかしみた「第三舞台」にもこういう歌と踊りがあった。
思わず座り直して目を瞠る。
はじめてのひとばかりだから新鮮なわけではあるまい。
お話だとわかっている。
くっきりしたメッセージがあるふうでもない。
すらすらと速めのテンポが心地よく
乾いているのにみっちりとした実りを感じる。

どの人が、というお目当てはできなかったが
劇団新感線の「轟天」シリーズ(DVDで見たのだが)
パンダ国の王女“シンシン”役の
新谷真弓さんはわかった。
声が特徴的だから。
生でみると意外に華奢で愛らしかった。

もうひとりは映画で知った緒川たまきさん。
着物きた立ち姿がびっくりするほど綺麗だ。
若いのにすごいな、それに映画と
イメージが変わらないなんてな、とますます驚く。

カーテンコールが終わっのは十時前だったが、
十五分後には部屋で寛いでいた。
近いお宿はいい。
他所では寝つきの悪いわたしがその晩は
珍しく夢も見ずに朝までぐっすり眠った。

ほどよい温度のお芝居は何よりの眠りの助けだ

[付記]
パンフレットは文庫本を二つ合わせた大きさ
ハードカバーで63ページ
柔らかな紫色(和の色あい)で
鎖に吊るした箱に色んな種類の
犬が乗っかっている。
実はこれ、気球につり下がっているのだ。
一番大きな箱には耳がぴんと立った秋田犬(だろう)が。
彼だけは鎖じゃなくて栞紐。
そう、たいそうお洒落な本なのだ。
中は、対談ありコメントあり、
もちろん写真もあるが渋い光沢で落ち着いている。
字好きにも絵好きにも好感度が高いと思われる。

作:岸田國士 
潤色:構成:演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

振付:井手茂太
和装:豆千代

出演:松永玲子 みのすけ 村岡希美 長田奈麻
   新谷真弓 安澤千草 廣川三憲 藤田秀代
   植木夏十 大山鎬則 吉増裕士 杉山 薫
   眼鏡太郎 廻 飛雄 柚木幹斗 緒川たまき
   植本 潤 萩原聖人 大河内浩 松野有里己

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