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2007.07.25

悪…とは?「薮原検校」

京橋の駅からは少々遠いが、もう慣れた。
シアターブラバで今回見るのは
井上ひさしさんの戯曲「薮原検校」である。
演出が蜷川さんなのも決定要素のひとつだが
なんといっても、主演が古田新太さん。
これを見逃すのは惜しい。

彼の舞台は劇団新幹線で見ているし
テレビドラマでも何度もお目にかかっている。

ちょっと不思議な雰囲気を持っているひとだな、と
思ってみていたが
「轟天」シリーズのDVDでを買ったら
実にオモシロ可愛らしい。
おさげで眼鏡の「いずみちゃん」役
びっくりするやらおかしいやら。
その扮装で、むにゃっと顔をひん曲げて
「やってられねぇや」という表情をされると
流れが突然ワープする感じで一瞬茫然、
そのあとで強烈におかしさがこみあげる。


劇場に着く。
客層がなんかへん。
まるでPTA主催の催しみたい。
それもOB中心のような高い年齢層である。
そろって“お出かけ”スタイルの女性ばかりだ。
蜷川さんのファンらしき年配男性がちらほらと
見受けられる以外は
みっちりぎっちりおばさん集団である。

もちろんわたしもそのひとり。

若いひとの、旬のファッションを楽しみに
お芝居見に行く面もあるのだが、
この日は早々にあきらめた。

席は一階真ん中の通路より後ろだ。
距離も見え方も申し分ないが
開幕までざわざわが消えない。
こんなところもPTAの集まりに似ている。

井上さんの初期の作品は好きだった。
中でも、悪人を主人公にしたこの「薮原検校」
平賀源内を描いた「表裏源内蛙合戦」
「道元の冒険」これは曹洞宗を開いた道元禅師が主役、
この三つの作品は、
まるで小説を読むように読んだ。
発表当時は芝居に疎かったので、
実際に舞台でどうかは想像できなかったが
言い回しや洒落、作者のものの見方が
とても面白くて惹かれた。

蜷川さんの演出だからさらにたのしみ。

幕が上がると
三味線、のような音がする。
凄いリズム、じょんからのサビのように激しい。
生演奏はやっぱりいい。
ばしっと音楽がやむといっせいに拍手が起こった。
ライトに浮かんだ弾き手が持っていたのは
たった一本のギターだけ。
舞台の装置も音楽も
鮮烈かつシンプルな出だしである。

舞台に張りめぐらされている綱(縄かな)が
場面が変わるごとに役割を変える。
登場人物が堂々と松の作り物を持ってきたりする。
暗転が少ないので集中が途切れなくてよい。


お話は
大悪人である「薮原検校」の一代記だ。
語り手と、ヒロインのお市、主人公の杉の市
その三人だけが、同じ役を一貫して務める。
語り手は膨大な台詞をしゃべる
それをよどみなくこなす壤さん、
蜷川さんの舞台ではおなじみの人のようだ。

江戸時代の東北地方、
貧しさゆえに盲目に生まれつけば
座頭になるしか道がなかったそうな。
ところどころに歌が入るが
この歌入り芝居、
今でも全然古びていない。

杉の市が父親の悪事の因果で
盲目に生まれ、
弟子入りした師匠の妻を寝取り、
逃げる道中にさらに人を殺め
やっとお江戸にたどりつくまでが前半。

音楽担当が宇崎竜童さん、
彼の曲だからわたしにも歌いやすくてオーケーだった。

古田さん、生き生きと
まるで生まれついての悪魔のように
さらさらとこの大悪人を演じている。
相手の出方をうかがうふてぶてしさや、好色さに
なんともいえない愛嬌がある。
頭はすっかり剃り上げてあって、たいそうお似合い。

ヒロインの田中さん、
あっさりした演技で薄幸さが勝ちすぎて
メリハリに欠ける恨みがあるのがちょっぴり物足りない。

すごかったのは段田さん。
次から次へと役を変えて登場し
そのどれも、すばらしくはまっている。
小悪党な杉の市の父、
清廉な学者 塙保己一
お江戸のお気楽な座頭
最後は検校の首を打つ介錯人まで
『粋で明るくて小ずるくて男らしくて』
テレビ出演だけ見ていたのでは
わからなかった魅力をたっぷりと見せてくださる。

壤さんの語りが繋ぎごとに入り
その美声に聞きほれる。
歌が何度もリフレインされる間は
ちょっと息を抜いてくちずさんだりもする。

字面だけだと「勧善懲悪」に見える筋書きだが
井上さんの脚本は、
風土の暗さと盲目からくる差別のつらさを訴えてやまない。

なりふりかまわず
人をだまし殺めてあと少しで
「検校」の位を手に入れる直前に
塙保己一に語る言葉は

「金でのぞみはなんでもかなう」だった。

そういいはなつ彼の顔は生き生きと輝いていた。
昨今は“お金がすべて”は当たり前だが
この本が書かれた時代はそうではなかった。
まだまだ辛抱や努力が価値あるころで
だからこそ衝撃的な言葉だったのだ。

松平定信に、
杉の市の処刑方法を問われた保己一は
「みせしめとして思い切り残酷になされば
民は快哉を叫び、その祭のあとはまた営々と
お上の思うがままに暮らすであろう」
(という内容だった、とおもう)と返事する。

“みせしめ”っていまでもあるんじゃないか、と思った。
この間まで、マスコミに取り上げられ
もてはやされていたひとが
一転して叩かれ、ひどい言葉が次々と浴びせられる。
わたしたちはその報道をみて溜飲をさげ
また新たな事件やヒーローを待ち望む。


アンコールの時の役者さんたちの笑顔がすばらしい。
なかでも古田さんがとても嬉しそうだったような気がする。

「祭り」を楽しんで外に出ると、まだ日が高かった。
お芝居を見るのは夜のほうがいい。

【日時】2007年6月7日
【会場】シアター BRAVA


【スタッフ】
作:井上ひさし
演出:蜷川 幸雄
音楽:宇崎 竜童

【キャスト】
古田 新太:杉の市、後の二代目薮原検校
田中 裕子:お市
壤 晴彦:語り手役の盲太夫(めくらだゆう)
段田 安則:魚売りの七兵衛/男(お志保の情夫)/とっかえべい屋/塙保己市/江戸座頭・安房の市/首斬役人 ほか
梅沢 昌代:七兵衛の女房お志保/日本橋の橋番 ほか
六平 直政:仙台座頭・熊の市/佐久間検校/水戸東照宮の宮侍/日本橋下の魚売り/凶状持ちの倉吉 ほか

山本 龍二:塩釜座頭・琴の市/馬具屋/刀研ぎ師・善兵衛/江戸座頭・伊豆の市/初代薮原検校 ほか
松田 洋治:佐久間検校の結解/魚市場の仲買人/若い座頭/江戸座頭・甲斐の市/定廻同心・浅野某/将軍補佐役・松平定信 ほか
神保 共子:相対死の片われ女/強請られる寡婦 ほか
景山 仁美:魚河岸の売り子/強請られる寡婦の娘 ほか

赤崎 郁洋:ギター奏者
ただ不思議なことにお能は
昼でも夜でもまったく感動に差がない。
なぜだろうな、などと思いつつラッシュの新快速電車に揉まれる。

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