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2007.08.03

耐えるひとのすがた…「満仲」

「邯鄲」をみた五月には
まだ体調が充分でなく、舞台がはるか遠くに見えた。
この日の喜多能楽堂の公演も
ぎりぎりまで迷っていたが
決心すると嘘みたいにすっきり目が覚めた。
目黒の駅でもたついて焦ったが
開場前に着くことができ、ほっとした。

席も近くはないが正面席
いつもお世話になっている地元のかたとご一緒できた。
ほっとして楽にお能をみることができた。

まったく初見の「満仲」
友枝さんの直面のお能は「安宅」に続き二度目である。
直垂姿でかしこまる姿がうつくしい。

彼(仲光)があるじの前にかしこまる。
何度も何度も同じ型が繰り返されるのに
はなしが進むにしたがって
時々の意味あいが違って見えてくるから不思議だ。

とくに友枝さんの舞台はいつも
こころにしみる。
疲れていて気持に余裕がないとからだが硬くなって
お能に参加できないのでつらい


「満仲」正確には源満仲
摂津源氏の棟梁の名である。
シテはその乳兄弟の仲光で
主従ではあるが
あるじの心を我がことのように理解できるあいだがらだ。
また子の幸寿とと満仲の子美女丸も同様である。
二代に渡る堅い絆
仲光はあるじに忠義を尽くし、美女丸の養育も兼ねている。

満仲役は中村邦生さん
落ち着いた雰囲気のかたである。
そのしずけさがこの劇を緻密なものにしている。

期待をかけているのにそれにこたえない息子に
満仲はきびしい。
ついに腹立ちのあまり仲光に
「あんな子供は子とも思わぬ、討ってしまえ」と
言いはなつ。

聞いた仲光は
あるじの命令に驚く。
一時の気の迷いだとわかっていても
命令に従わないわけにはいかない。
とりあえず若君の美女丸を怒りが鎮まるまで
身を隠させようと思った。

しかしあるじは「証拠」を見せよというだろう。
苦しんでいる父に我が子の幸寿は
「わたしが若君の身代わりに」と申し出る。

仲光は苦しみ悩む。
うつむくいている型に彼の思いがこもっている。

ついに太刀を抜く。
一閃する刃の鋭さと速さ。
激しい音をたてて倒れたのは幸寿だった。
仲光は若君を逃がすために我が子を手にかけたのだ。

さて、夜に紛れて我が子の首を若君のものとして
あるじに示したあとしばらくして
満仲は彼に告げる。
「美女丸に代わる息子をもたない我であるから
そなたの息子幸寿を、跡継ぎとして迎えたい」と。

どう答えればよかったのだろう。
両手をつかえて頭を下げ、
「幸寿はあまりの悲しみに行き方知れずになりました。
わたくしもお暇をいただいて出家したくおもいます」

そこに突然
恵心という名の僧が美女丸をともなって訪れる。
お話も後半になって初めてワキが登場する。
とても珍しかった。
恵心とはたぶん、浄土教をはじめた、恵心僧都源信であろう。
満仲は都に住んでいたし、
修行するには比叡の山であったろうから。

それまでの緊迫したやりとりから、雰囲気が変わって
第三者の立場から
恵心は美女丸を預かっていることと、
それが仲光のはからいであることを告げる。
恵心の役は宝生閑さんで、
おなじみの枯れた声が響くと舞台に不思議な安心感が漂う。

かれのとりなしで
満仲は美女丸を許す。
(おもてには出さないが、短慮な命令を出したことを
悔いているにちがいない)
さらに恵心僧都は、
「舞いを舞いなされ」と仲光に言う

あるじと美女丸が仲直りできたのは嬉しい。
仕える身であるから仲光は「寿ぎの舞い」を見事に舞う。
短い舞いだが美しい。
しかし我が子を喪って
これから彼はどのように
生きていけばよいのか

身代わりの話って
歌舞伎や文楽にもあった。
おなじみの筋書きなのに、
友枝さんがなさると
その悲しさに気持が引き裂かれるような気がする。
仲光のつらさかなしさが
まっすぐに舞台から届いて
見ているものの心もせつなくなるのだ。
終わったあともしんみりとした余韻がただよう。

それからの仲光は
変わりなくあるじに仕えつづけるだろう。
出家ののぞみはいつもあるが。
これからの生において
むかしのことを息子に語る時間はなく
むすこが父を思いやる場面もない。

淡々と日々を過ごす、彼のこころの中に、
あの一瞬ひらめいた
白い光を閉じこめた部屋があるはずだ。
なくなることはなく、開けられることもなく
ずっと。

お囃子は渋かった。
笛も大小もよい具合に音が枯れていた。
(一噌仙幸さんの笛 好きです)
情に流れない音の網が
ふわっと舞台をおおっている。

喜多流職分会 六月自主公演能
平成19年6月24日(日)11:45開始
於 喜多六平太記念能楽堂

仕舞
雲雀山 佐々木多門
船橋  大島 輝久


シテ・藤原仲光:友枝 昭世
シテツレ・多田満仲:中村 邦生
子方・幸寿丸:友枝雄太郞
子方・美女丸:狩野 祐一

ワキ・恵心僧都:宝生 関

笛:一噌 仙幸
小鼓:大倉 源次郎
大鼓:亀井 忠雄

後見:高林牛口二、長田 驍

地謡:
粟谷 能夫
粟谷 明生
長島 茂
佐々木宗生
大島 輝久
狩野 了一
金子敬一郎
塩津 圭介

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