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2007.08.16

「砂利」…ぶきみな音

舞台に砂利が敷いてある
ひとが歩くとざりざりと鳴る。
幕が開くと
ごく普通の日本家屋の二階建て。
屋根から雪が落ちる音が何とも不穏な感じがする。

舞台はこの一軒屋から動かない。
障子を開けると奥行きが出るが それだけ。
とてもシンプル、というか愛想無し。
レトロな感じの茶の間でくりひろげられる不可解な劇だ。

この家に住んでいるのは四人
引きこもりの兄、蓮見田。
妊娠しているその若い妻。
一家を支えて働いている弟。
もうひとろ知りあいの男が“静養”と称して寄宿している。

兄は、ついこの間まで、父の介護に努めていたが
むかし、苛めた同級生が仕返しに来る恐怖に怯えている。
彼の気持ちを変えようと、妻は明るく振る舞うが
兄の気分は落ち込んだままだ。
下宿人はそんな兄をこっぴどくからかい、
「生きていくための暇つぶし」と語る。
弟は真面目に必死に働いている。
そこへ二人の人物が外界から入り込んでくる。
すこしづつ回復していく蓮見田の前にあらわれた妻の姉。
じつは彼女こそ、兄が怯える「同級生」だったのだ。
もうひとりの気弱な男、小森は
菓子箱を抱きしめて、小鳥のように不安げだ。
皆の気持ちがしっくりはまらないままに時が過ぎる。

場所は青山のスパイラルホール
この前行った青山円形劇場からはすぐのようだけど
パンフレットの案内通り地下鉄に乗る。
駅出てすぐのスーパーに入るとそこは「キノクニヤ」
喜んでエコバッグを買う。
丈夫で愛用しているが発送費が要るので高めなのだ。
地元で買えるなんてありがたい。

おしゃれなビル(東京では珍しくない店構え)の
三階がホールである。
ロビーには花の香りが溢れていた。
それほど花輪が多かった。ひとつづつ見て歩く。
テレビ局のものがたいそう多い。

客層は若いひとがほとんどだ。
男性の姿も目立つ。
その中で、いかにも「奥さま」の数人連れが何組も
三津五郎さんのファンかなあ、と思う。


舞台は狭め、椅子は普通のパイプ椅子
客席はスロープではなく段になっている。
ふだんは講演会などやっている会場だろうか。
エアコンがぶんぶん効いていて寒い。
寒すぎて劇に集中できないので、
席を離れて上手側で立ち見をする。


近藤さんは言いたいことが
いっぱい詰まっているような役だった。
情熱的で、たたみかけるようなセリフに迫力がある。
坂東三津五郎さんは、
Tシャツとジャージ姿があまり似合わない。
着物姿を見なれているからかな。
猫背気味の姿勢に思い詰めた感じがよく出ている。

田中美里さんは
なんとなく不安定な妻(有里)を熱演している。
妊っている彼女は
年の離れた夫を理解しようとするあまり
逆に自分も暗い気持ちに陥ってしまうようなのだ。


下宿人の山西さんの人を喰ったシニカルさがいい。
彼の部屋は二階にあって、「高みの見物」している彼の
それでも人と繋がっていたい距離感が
よく出ている。
ふてぶてしい顔でうそぶくと、言葉とは別に
おかしみがほわん、と漂い出て
ふいと見ているこちらのテンションが緩む。


ころころ好人物風の酒井さん演じる小森は
真っ正直な真面目さが
余裕が無く危なっかしい感じを出しいた。
彼が埋めようとしている菓子箱の中味は
あらゆる「悲惨」だ、と彼は言う。

まるで“パンドラの箱”

突然怪しげに登場する片桐はいりさん。
テレビドラマで何度も顔を見ているのだけれど
舞台の姿にほんとにびっくりした。
声も立ち姿も思っていたより十倍以上きれいだ。
傾げる首すじやはにかむ姿態、目の輝き
スポットライトがいつも当たっているみたいだ。
蓮見田に迫る場面も、切なくてしかもコミカルだ。

バランスボールに乗っている蓮見田はほんとに不器用そのもの。
自分の思いこみと介護の疲れで
「妄想」を起こしてしまったのだろうか。

それなのに、ちょっと気持が落ち着いたら
(舞台の照明がやや明るくなったようだった)
考えなしに、小森の置いた「箱」を開けてしまう。

その瞬間にはなんにも起こらない。
だが、舞台に紗の網が降りてきたように
漂う雰囲気が暗くなる。


蓮見田兄弟の悩みも、小森の悩みも
とても若々しい。
世界の中心に「自分」が居るような悩みだ。
ところどころで笑い所はあるのだけれど
もうひとつ、流れに乗っていけなかった。

お芝居を観るのは、伸び伸びしたいからだ。
だがこの「砂利」はほんとにご飯に入った砂粒のように
がりりと歯にひっかっかるのだ。
演じている役者さんたちは熱くてとても魅力的だ
なのに距離を感じるのがもどかしい。

年のせいかな、
心の中にわけいる劇よりも、
無心に眺められるお話のほうが
あたまもからだも休まるようになったのは。


2007年7月27日(金)午後7時開演
場所*青山スパイラルホール3階

劇団ダンダンブエノ公演

『砂利』

【スタッフ】
作:本谷有希子
演出:倉持 裕
音楽:ハンバートハンバート

【キャスト】
坂東三津五郎:蓮見田
田中 美里:有里
片桐はいり:際
酒井 敏也:小森橋
山西 惇:戸所
近藤 芳正:孝生

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