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2007.09.24

精霊の舞…「六浦」

地方大都市の駅前は
あんまりにも賑やかすぎる。
チラシにあった平面図では
右も左もわからない。
広場の隅にあった交番へ
迷わず飛び込む。

ヨドバシカメラの前を通って
セブンイレブンの角を曲がると
小さな緑地公園があった。
九月とはいえまだまだあたりは蝉しぐれの中。

相当に古い鉄筋コンクリート作りの建物の中に
こじんまり以上
ちいさなちいさな能楽堂があった。
お能だけではなく、他の活動にも
使われるとみえて
目付柱は半分だけで
屋根はなく吹き抜けである。
天井からライトが吊り下がっている。

照明はごく明るく
舞台は低い。
橋がかりも短い。
見所の小ささは聞いていた以上で
正面など五列しかなく
シテの面と目の高さが同じ線上だった。

品川からノンストップで十五分
川越は相模の国。
舞われたのは「六浦」
この地ゆかりの曲である。

諸国行脚の僧が二人の従僧を連れて登場
白州の部分も狭いので目の前でワキが名告りを。

相模の国、称名寺に着いた僧は
一面の紅葉のなか
一本だけ青々としている樹をみて不審に思った。
そこへ現れた里の女は
「昔、貴人に褒められた楓の木は
“功成り名遂げた後は身退かん”と
それからは秋になっても紅くならなかったのです」
と語る。
そして、
「夜になったら真の姿を現しましょう。
どうぞ目を覚ましていてくださいませ」と言って消える。
その夜、読経する僧たちの前に
楓の精が…。

前シテは可愛い里女。
小面なのだろうか、あどけない感じがする。
沈んだ銀と橙に染め分けられた小袖を着けている。
模様はいちめんの秋の草づくし。

おだやかにさらりとこの紅葉のいわれを語る。
声の余韻が長く残る。
この能楽堂の特徴だろう。

中入りの前に
「夢ばし覚ましたもうな」とシテは僧に言う
少し面を傾けていっしんに頼みこむその姿
すっと背を向けて去ろうとするときに
一瞬、彼女はためらう。
こころをよぎったのはなんだったのだろう。
つつましやかなおとめは
夢の中でこそ生き生きと
自らを語り、舞うことができるからか

中入りでお囃子もクツロぎ
アイ狂言は細やかに
むかしの事情を説き明かす。

ごく短いお能なので
観ていて疲れは感じない。

一声で登場の後シテは
緑の長絹に紅葉の紋様
裾には流水が。

大口はやわらかな卵色
木の肌の色である

さわさわとおとなしやか登場して
ゆっくりと舞いはじめる。
久しぶりの序の舞

笛は松田さん
触れるような音色である。
音に体温があるのだ。
綺麗な音も
ドラマチックな音も 
寂び枯れた音もあるけと

これだけ
肩をつかんで
身ゆさぶるような音は滅多にない

真面目な小鼓
洒脱な大鼓
他のお囃子が後景で奏でられている中から

笛の音がするすると抜け出して
楓の精を包み込んでいるようだ。

あたたかな音色に乗せて
女がひとり舞う
その舞は、嬉しげだ。
かつて都人より褒められたそのことが
彼女の一生の宝ものとなったことを
ゆっくりとかみしめながら舞い継ぐ。

暁近くに
舞い終えると
佇む姿がすうっと薄れていき
女はひともとの樹になった。

それにしても
なんと、しおらしくも
つつましやかな幸せだろう。

“功成り名遂げたあとだから
この後は紅葉するまい”とは。
そういいながら
緑の装束で舞う乙女の
愛らしくも可憐な斜め横顔がいい。

友枝さんの美しさは
間近くでもまったく変わらない。
お話が静かでシンプルだから
ところどころ謡についていけなくても
まったく問題がない。

神でもなく天女でもなく
きらきらしくはないけれど
あどけなくもいちずな
あずまおとめのお話である。

地頭は粟谷能夫さん
地謡が六人と少ないが
音響がよくてとてもよく聞こえる。

もともと鉄筋の建物だから
よく響くことはいうまでもない。
でも響きかたが洋風で
音の感じはホール能に似ているのが
やや物足りないような気もする。

ここしばらくの友枝さんの舞台では
劇的なお能ばかりを拝見していた。
このたびは
しみじみとシンプルな曲で
ほんとによかった。
体力的にもちょうどの長さだった。

平成19年9月1日 (土)
於 川崎能楽堂

能「六浦」

シテ 友枝 昭世
ワキ 工藤 和哉
ワキツレ 高井 松男
    井藤 鉄男

アイ  山下 浩一郎

笛   松田 弘之
小鼓 森澤 勇司
大鼓 國川 純
太鼓 金春 国和

地頭 粟谷 能夫

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コメント

いらしたんですか、すごいなー。チケット取れたのもエライ!でも、あそこの能楽堂、どう?私は、あの公民館的スタイルは、プロの演者には申し訳ない気がします。公営ならば文化を守るためには今後なんとかすべきと思っています。

投稿: fuku | 2007.09.26 00:28

あっ!そうです。
あそこって「公民館」なんですね。
音がちょっと響きすぎな感じがしました。

たしかにもうちょっとなんとかしてほしいですね。

(チケットはたいそう運が良かったので
ございまするm(_ _)m)

投稿: korima | 2007.09.26 10:39

お久しぶりです。いってらしたんですか!
私も行きました。

そうですか、公民館ですか。近所にほしいです^^
多分、プロは場所を選ばずって感じがいたします。
謙虚な能楽師であればあるほど。

来年も友枝さんご出演されるかしら・・・?

投稿: つきのこ | 2007.09.28 18:24

つきのこさんもいらっしゃってましたか!

行くときはくたびれてたのですが
帰りはすっきり。
お能の力は不思議です。
あんなに近々と拝見できる機会は
めったにありませんね。
またお江戸の能楽堂でお会いできれば
嬉しいです。

来年も、もしチケットが取れれば
行きたいです。

投稿: korima | 2007.09.30 10:03

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