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2007.10.05

みやこの子猿…「狂言ござる乃座」

“幸運の女神は後ろ髪しかないから”と
よく言われるが、その髪をつかみ損ねたわたしに
珍しくも降ってきたチケットは
なんと脇正面の最前列だった。
雨模様の日でエアコンが効き寒いくらい。

御所の西隣の金剛能楽堂、ロビーは
関西弁がほとんど聞こえない。
まるでお江戸が京都に引っ越してきたかのようだ。
お能の見所に比べると
若い女性の比率がぐんと高い。
やっぱり萬斎さんだからかな、と納得する。

まずはじめは小舞から
裕基くんには扇が大きく見える。
横顔も体つきも、並んだ萬斎さんにそっくり。
声も大きく、かっちりした舞だ。
次の出番のために控えている萬斎さんの視線が
何度か息子のほうに投げられる。
それがわかるくらい舞台に近い席なのである。

続く萬斎さんの舞は「鉄輪」
舞というよりドラマがあった。
コピー風に表現すると“女の情念”かしらん。
いつも目にする狂言小舞とはかなり違う。
装束が鮮やかな萌黄色の上下、よく似合っている。
やや顔の線が削げた感じがするのは
お年を召されたゆえであろう。
きらびやかさがすこし減じて
落ち着いた雰囲気を感じた。

この日の演目
「靫猿」小書きが替の型

まず登場の万作さん、深田さんの大名の主従
大名の華やかな装いが万作さんによく似合っている。
おおきな靫(よく目立つ)と
鏑矢と弓
太刀を履いて刀を差して。

猿曳きで登場の萬斎さんは
さっきの小舞の時とはうってかわって
まったく狂言方の登場人物の顔である。

間のとりかたに特徴がある。
ゆるめる間が長めな気がする。
大名が猿の皮を呉れ、と無理を言う前半は
緊張をはらんだドラマが展開する。
小猿は愛らしいがもう無心ではない(裕基くん)
きっちりと足をかき頭をかきでんぐりがえる、
みごとに型になっている。

それを操る萬斎さんの手の動きがきれいだ。
何度も見ほれてしまうほどに。
謡いながら
綱をひきながら
引き出物を取る
この三つの仕草がよどみなく繰り返される。

その間、子猿はずっと舞っている。
大丈夫かしらとおもうくらいに長く。
萬斎さんはずっと謡っている。
この部分が長いのが「替の型」なのだとは
後でパンフレットを読んで知ったことだ。


大名が子猿の愛らしさに負けて
大声で泣き出すところがひとつの頂点である。
「うつぼ」の皮を得る代わりに
ちょっかいを出す子猿に目を細め
どんどんと身につけたものを
猿曳きにやってしまい
嬉しそうに猿の真似をする万作さんが愛らしい。
それでいて、控えめなところが
千作さんとは違っている。

「月を見よ」との猿曳きの声に
手を頭にかって横たわって
月見る猿、それを真似る大名。
まことに秋にふさわしい演目である。

子猿の装束付けを間近で見ることができた。
脇正面だから、手を伸ばせば届きそうな距離である。
さらさらと笠をかぶせて衣装を着せる萬斎さん、
この手つきもきれいだ。
笠もかわいいが
ちゃんちゃんこに付いている鈴が
しゃんしゃんと鳴る。これがじつにいい音だ。
猿曳きが腰にさしている
御幣の紙がきわだって白い。

またひとしきり謡があり、終わった瞬間
ひょいと猿曳きは子猿を背負う。
それが話の終わりである。
きっぱりしたあっというまの幕切れ 
この潔さはここちよい。
演者が揚げ幕に消える直前に
穏やかな拍手が鳴る。
そのころあいもとても感じよかった。

外に出るとまだ雨が
「萬斎さんは雨男だから」と口々に
帰るひとたちが言っている。
そうだった、たいてい行きか帰り、どちらか
降られるはめになるのだったっけ。
駅までは徒歩五、六分
折りたたみ傘の列が細長く続いた。

もうひとつの狂言は「文荷」
こちらは万之介さんと石田さんの熟練コンビ
主人役は高野さん。
謡も舞も型がうつくしく
そのうえにほんわりとした笑いどころがあって
文句なしの楽しさ。
よいものを見て元気が出、
お連れになったお隣さんとふたりでお茶を飲み
緩やかで豊かな時間を過ごす。

こんなによい席を譲っていただいて
感謝のしようもないのが心残り。
「ござるの座」は来年もあるそうなので
秋口の気温の変化に弱い、
わたしのからだの折り合いをつけなければなるまい。

2007年9月24日 開演14:00
 於 金剛能楽堂


小舞 「七つ子」 野村 裕基
小舞 「鉄輪」   野村 萬斎

狂言 「文荷」   野村 万之介
           石田 幸雄
           高野 和憲

狂言 「靫猿」  野村 万作
           野村 萬斎
           深田 博治
           野村 裕基         

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