「コリオレイナス」…英雄のなかみ
舞台をテレビ中継で見る機会が増えた。
去年からしばしば舞台に足を運んだから
少し雰囲気に慣れてきたようだ。
お能は舞台中継に向いてない、と思う。
橋がかりから出るときの
シテの風情がわかりにくいことや
お囃子と演者の距離感が変だったりすると
やっぱり、能楽堂に行かないと、と思うのだ。
能楽堂だと比較的こじんまりとした空間だから
たとえ後方の席でも
充分に謡も舞もお囃子も堪能できるからである。
(歌舞伎も文楽も生で見た方がずっとよい)
しかし
お芝居となるとちょっと違う。
特に大劇場だと、
座った席によって、感動が大幅に違うからだ。
わたしの経験では
劇団新感線の公演は
一度は劇場で、細かい部分はDVDで
楽しむのがGOOD。
登場人物が多いのと、舞台が広いので
一度に全体を見渡すことは無理だからだ。
小劇場系の芝居でも、
役者の表情まで見たいと思えば
DVDやテレビ中継に頼るしかない。
衛星放送では、伝統芸能や芝居の
専門チャンネルがあるらしいが、
地上波しか受けられない我が家では
デジタル放送まではガマンなのだ。
前置きが長くなってしまった。
蜷川さん演出の「コリオレイナス」
これを生でみようと思えば
埼玉まで行かなくてはならないところだ。
近くの大劇場でも多分上演されただろうが
公演日がすくなく
都合がつくとは限らない。
国営放送の「芸術劇場」枠は
その点でとてもありがたい。
難を言えば、エンターテインメント系が少ない。
暗く、どっしりしたものが中心で
くたびれている時にはちょっと苦しい。
ここ最近
蜷川さん演出シェイクスピアを二本見た。
どちらも喜劇だったから
悲劇も見たかった。
まったく知らなかったこの作品、
のっけから暗そうで、不安だったがとにかく録画した。
まるでお能の「序破急」のように、
前半の密度がゆったりと濃い。
ひとりひとりの人物が
初めの部分でしっかり描かれている。
役者も達者揃いである。
母親役は白石加代子。
粘っこい演技が
この劇によく似合っている。
「国盗人」のときは、主な役が全部彼女で
さすがに参った。
ユングの言う“グレート・マザー”タイプ。
この母ののぞみは自分の育てた息子を
自分の思うように操縦することだ。
ロボットのようなコリオレイナス、
驚くほど強く
戦いには常に勝利する。
しかし元老院議員になるために、
民衆の支持を得ようとするとき
彼の強い「エリート」意識が
市民の反感を買う。
追放された彼は、なんと敵国に飛び込むのだ。
母から離れて
ひとりだちできるよい機会のはずだった。
ところが、自分を追った市民たちを憎むあまり
彼は感情にまかせて、
自分のふるさと、ローマを滅ぼそうとする。
敵国で将軍になれたのは
ライバルのオーフィディアスが
ふところ深く彼を迎えたからだった。
その恩人にさえ高慢に命令し
あと少しでローマに迫ろうとしたとき。
ローマを攻めないでくれ、と頼みに来たのは
妻と子と母だった。
わが子と妻の哀訴は退けることができたが
母だけは、彼の「情」に訴えかけることができた。
悩んだ末に彼が出した結論は
今度はローマに戻ってローマのために戦う、だった。
敵国ヴォルサイのために戦って得た勝利を数え上げ
「これだけの仕事をしたのだから」と
あっさりと言いきり、別れを告げる。
彼の心のなかでは矛盾のないことだから。
オーフィディアスはコリオレイナスに撃ちかかる。
このまま彼を行かせれば、
またこの国はローマに蹂躙されるに違いないから。
長い年月、お互いに戦っていたから
コリオレイナスの性格(その純粋な高慢さ)をよく知り、
再びの寝返りを危ぶんでいたのだ。
もちろん、彼自身の地位を保つ必要もある。
ここで勝負を挑むのは
オーフィディアスにとっても賭けだったのだ。
大階段での長い戦いの末に
オーフィディアスの剣はコリオレイナスの喉を貫く。
血しぶきの中に倒れる彼を
しっかりと抱きとめるオーフィディアス。
息が絶えたときはじめて
彼はコリオレイナスを讃える。
その比類ない強さと高潔さ、
純粋な軍神ぶりを。
そう、確かに彼は強かった。
でも心は、母によく思われたい子どものまま。
人と人の関係についてもよくわからず、
思いやりをまだ持たない子どものまま。
こんな人が身の回りにいたとするなら
父親代わりのメニーニアスのような、
優しい心で接することができないければ、
ただ迷惑で腹立たしいだろう。
賢く、家柄もよい彼は、
貧乏で愚かな「市民たち」をしんそこ馬鹿にしていた。
ひとを馬鹿にすれば
その結果は自分にかえってくる。
だから、彼の死は自業自得としかいいようがない。
役者たちの熱演と、演出の妙、
舞台のほとんどを占める大階段。
暗い灰色が、この劇を象徴している。
ビデオテープを
全部見終わるには三日かかった。
登場人物の関係は、なんとか理解できたが
何せむかしの話、しっかりセリフを聞いていないと
わからないことばかり。
テレビで見ても力強く迫力満点。
実際の舞台はすごかったに違いない。
蜷川演出のシェイクスピアを
もっと色々見たいと思うが
こちらでは公演日数が少なすぎる。
冬の間に、(夏より冬のほうが動ける)
見られないかな、と
舞台のチラシをながめている。
主な配役
唐沢寿明 :ケイアス・マーシアス・コリオレイナス
白石加代子:ヴォラムニア(コリオレイナスの母)
勝村政信 :タラス・オーフィディアス(ヴォルサイの将軍)
香寿たつき:ヴァージリア(コリオレイナスの妻)
吉田鋼太郎:メニーニアス・アグリッパ(コリオレイナスの友人)
瑳川哲朗 :シシニアス・ヴェリュータス(護民官)
原康義 :コミニアス
大友龍三郎:タイタス・ラーシアス
手塚秀彰 :ジューニアス・ブルータス
その他 市民、兵士、召使い、神官たち、など多数
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 「椿三十郎」…いまふう時代ドラマ(2007.12.29)
- ヘア・スプレー&クワイエットルームにようこそ(2007.12.18)
- 「コリオレイナス」…英雄のなかみ(2007.10.30)
- 「ガリレオ」を見る(2007.10.23)
- 「魔笛」(2007.09.14)


コメント