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2007.10.19

テアトル・ノウ「野宮」

いままで観たどの曲でも
味方さんは
「この主人公ならさもあろう」と
納得する人物像をつくりあげておられた。

「野宮」の主人公は
“あの”六条御息所である。
期待は大きかった。

結果から言うと
さすが味方さん、
なるほど、と充分に堪能したのだったが。

ファン層の広いかただから、と
開演よりかなり前に着いたのだが
午前中から列ができていたそうで
扉は三十分も早く開いた。

このあたりの気づかいがよいのだ。
席も一枚づつ引き換えるので
自分以外の席を取り置きできない。
このやりかたも公平で気持ちよい。

味方さんの姿、装いとも完璧である。
歩んでも座っていても舞姿も。
きっかり、くっきりした舞ぶりは安定している。

その装い
前シテの小袖は豪華なしろがねの地に
秋草の紋様。
地味なだけに面のうつくしさが際だつ。
襟もとの着付けがいつも観ているのと違っていて
立ち襟の具合がすごく綺麗だ。
鬘帯も小袖と同じ輝きの銀色に揃えてある。
その、きらきらしくなく
抑えたかがやきがこの曲の趣き、ということなのだろう。

すらりとした姿で登場して野宮に参り、
ワキと長い問答に入る。
動きのない前場がちっとも退屈でないのは
座ったままのクセの場でも
静まり方がみごとにうつくしいからである。
背筋は伸びて、
その姿勢がずっと動かずにあることに驚く。
ワキに向くところも滑るようになめらかである。

落ち着いた面ざし、
切れ長の細い目が憂いを帯びている。
時々ふと少女のようにはにかみ、
車争いの場面では
激しい感情を見せるが
すぐに思い返して静かな表情にもどる。

語り終えて
橋がかりを歩む前シテの表情は
たったいま告げたとおりの御息所になっていた。

後場に入ってもそのあでやかな美は変わりなく輝く。

まことの姿をあらわした六条御息所は
渋めの緋色の大口に
落ち着いた青色の長絹をつけていた。
さらりと秋草が描かれており、玉留は緋色。


まさか、“青”とは思わなかった。
ずっと以前に半能をみたたときには
緑がかった長絹だった記憶がある。
(舞われたのは片山慶次郎師)
しかし、こうして観ていると
青と緋は合うのだ。
華やかさと理性、
両面を持っていた御息所に
よく似合った色目におもえる。

長い序の舞はしっかりとすすむ。
そうは言っても堅苦しい舞ぶりではない。
粛々と、流れるような笛の音にのって
語りきれない心のうちを
僧に伝えたくて舞っているかにみえる。
(じつは「序の舞」の入る曲を観るのは
ほんとに久しぶりなのだ)

このあたりになると
からだがすっかりお囃子になじみ
気持ちよく遊べるようになる。
ゆらりゆらりと
眠りの縁を出入りしていると
半ば閉じたまぶたにみえるのは
きれいな舞姿。
なんと心地よいことだろう。

輪廻の生を生ききって
火宅の門を出る女。
簡素に作られた門からすいと出るときの
横顔の美しさは
なににもたとえようがない。
面には生気が宿っている。
現実の女性かとみまがうほどに。

味方さんの御息所は
遠い彼岸からではなく、少し離れたところから
短い旅をしてきたように見える。
そんな風に思うほどしっかりした存在感なのだ。

その華やかさを、たとえて言えば絵巻物
くるくるとひもとく「源氏物語」の一帖
絵筆をとるのは都の絵師に間違いない。

きょうのお囃子方は
わたしがお能を見始めてから
時々に音色を聞く機会の多いかたがたである。
成田さんにはこの間、「TTR能」でお会いしたので
改めて触れないが
笛の竹市さん、
かっての激しい流れがゆるやかに幅広くなられたし、
エネルギー溢れる広忠さんの大鼓も
抑えが効いて渋くなり
かけ声はすらっと美しくとおる。

どこから見ても満点の舞台に
ひとつだけ言うことがあるとすれば
それは「声」についてである。

味方さんの声はやわらかい。
みやこぶり、と表現すればよいのかしら、
師匠の九郎右衛門さんもそうだが、
声が撓うのである。

源氏物語の中の人物で
この声ににあうのは誰だろう、と
探して行きついたのが「朧月夜」の君だった。
深窓の美しい姫君、やわやわと情深く
源氏の求めを拒まなかったひと。

などと思いをめぐらすことができるのも
見た後の長い余韻である。


演目はすべて源氏物語ゆかりのものだった。
そのなかで、
片山慶次郎さんの「源氏供養」、
古木の梅に咲く花のように
香りただよう舞囃子だった。
もうおひとかた
片山清司さんの仕舞、
鬼と化した六条御息所が
激しく嫉妬に燃える「葵上」。
拍子を踏む音にひそむ女のかなしみが耳にしみた。

第16回 テアトル・ノウ「源氏物語」
平成19年9月30日(日)午後1時30分始
於:京都観世会館

解説:源氏物語と能   味方 健

舞囃子:「源氏供養」  
    片山 慶次郎

仕舞 :半蔀   味方 健
    玉鬘   梅田 邦久
    葵上   片山 清司
    須磨源氏 片山 伸吾

能 :【野宮】
    シテ   味方 玄
    ワキ   福王 和幸
    アイ   茂山 忠三郎

    笛    竹市 学
    小鼓   成田 達志
    大鼓   亀井 広忠

    地頭   片山 清司
    後見   味方 團
         片山 慶次郎

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