「室温」…月の裏側を読むような
戯曲を読むのは久しぶり。
第三舞台の鴻上さん以来だ。
「謡」も“戯曲”と言えなくもないが
劇のシナリオとはちょっと違う。
芝居を見に行って彼の作品を“読みたい”と思った。
「噂の男」を演出した、
ケラリーノ・サンドロヴィッチがその人である。
「室温」(夜の音楽)を図書館で借りる。
主人と客のごく普通の会話から話は始まる。
五人の主要人物たちは身もともはっきりしていて
なんの不審な点もみつからない。
とぼけたやりとりの間に来客がある。
この家族の秘密が少しづつ明らかになっていく。
【登場人物】
海老沢十三(作家・心霊相談もしている)
間宮(その娘サオリの恋人)
キオリ(サオリの姉)
下平(警官)
赤井(海老沢のファン)
木村(タクシーの運転手)
少年、老人、ヴァーニャ。
少年たちに監禁されて殺された娘を持つ父親、と聞けば
「被害者」だと思うのが普通だが、
海老沢は怪しげな心霊相談所を開いて高い金をぼったくっている。
ガンで余命がいくばくもないことが途中でわかる。
そして 亡くなった娘のサオリを犯しつづけていたことも。
娘のキオリは父にひそかに薬を飲ませている。
彼女は父を恨んでいるのだ。
男達とつきあって金を巻き上げ、
心を病んだ母の治療のために使っている。
間宮は、サオリの恋人でありながら、同時に彼女を
虐待、監禁、焼き殺した犯人グループのひとりだ。
警官の下平はキオリが目当てでこの家に
入り浸っている。
へらへらしているが実は
目下捜査中の「連続少年殺人事件」の犯人である。
まともそうな木村、偶然に飛び込んできた彼は
窃盗犯である。
ちゃちだがトリックスター役だ。
このお話にはサブストーリーがある。
死んでしまった少年は、
はるかな空からドラマを見下ろしている。
あとふたりの死者、老人とヴァーニャさん、
彼らの話はみんな哀しい。
ただ見ることしかできない彼らにひきかえ
主人公「たち」の自我の強烈さがあぶりだされる。
そしてこのドラマは
キオリに憑依したサオリと間宮が
愛を確かめ合った瞬間に、
炎に巻かれるシーンで幕を閉じる。
すべてが 焼き尽くされる。
跡形もなく、浄化もされず。
救いのないように見えるのだけれど
私はこの劇が大好きだ。
「噂の男」と同じように。
字だけだから動きは見えない。
しかしセリフのひとつづつに
後になってわかる意味が含まれていて
ジグソーパズルのピースのように、ぴたりぴたりと
はまって絵ができあがっていく。
その過程が何とも言えず心地よい。
題材や人物描写は残酷で冷たいし、
ひとりを追いかけてゆく展開でもない。
笑っているうちにふと背筋が凍るようなセリフもある。
赤井(実はサオリを殺した少年達の主犯の姉)が
「どんなにあなたが間違っていても
わたしはあなたの味方だから」というとき。
間違っていて自分勝手なこの言葉に胸を突かれる。
同じような愛が「噂の男」にもあったから。
その「噂の男」のDVDが来た。
表情がはっきり見えて、劇場でみたときより
樂に見られる。
一度みたからでもあり、
テレビだと、距離が遠いからでもある。
この劇も主に絡まる人物は五人だ。
それに絡まるふたり、「骨なしポテト」の
二人組の存在感を大きく感じた。
収録が東京での公演のせいか
関西弁が微妙に共通語っぽい。
アップになると
じゅんさんが遠目より若く見える。
小さな悪さしかできないアキラのしょうもなさや、
ボンちゃんが一番善人らしいとか、
支配人のじっとりした目つきがよくわかるなど、
舞台のときは見逃していた部分が
はっきりと像を結ぶ。
だからといって受けた印象が変わることはない。
よくこなれた五人のせりふの受け渡しは
息つく暇もないし、
「室温」と同じように後半、一気に話が走り出すと
それにつれて痛いような気分になるのもまったく同じだ。
見終えて浮かぶ疑問も。
なぜアキラの霊ははモッシャンの味方をするんだろ、
とか。
私の答えもかわりなく
アキラはモッシャンが自分を思っているのを
よくわかっていたから、
自分が手を下さずに
(つまり彼との関係を壊さずに)
コンビを解消しようと思ったんだろう。
支配人の思慕をはねのけるのも、
かれが「正直」なためである。
でもそういう正直って何になるのだろう。
もうひとりまっ正直なひとがいる。
モッシャンこそは、どこをとっても気持はひたすら
アキラと居ることにかかっている。
だから人を殺しもした。
アキラに死なれた後の彼はまったくのうつろ、
奈落の底の暮らしがぴったりだ。
アキラのためだけを思って行われる殺人の数々、
純粋な輝くようなその心は反面とてもおそろしい。
劇の終わりに舞台に残っているのは、
正気ではないモッシャンだけだ。
彼の心はアキラでいっぱいだから、
輝いていた時を「止めよう」と
してはいけなかったのだ。無理なことをすると
そこから悪いものがうまれるから。
この舞台での関係は網の目よりもっと細かく、
そこから逃れることのできるものはいない。。
原因と結果が、めぐりめぐって、
感情が蒸気みたいに噴き出して、
そして結末へなだれ込む。
DVDには特典がついていて、
役者さん全員のインタビューがある。
どの人も楽しそうに話すのだが、
涙ぐんでいたのがふたりの橋本さんたちだ。
さとしさんは、先輩のじゅんさんと芝居ができるのが
とっても楽しそうだ。
じゅんさんも嬉しくてたまらないようだ。
みんながよいチームだったと口々に語る。
それを見ているだけで、
そんな舞台の時間を共有できて
ほんとうによかったと思う。
いつか、
KERAさんが演出する他の劇も見てみたい。
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